「なんで」


 チャンプは説明する気がないらしい。


「なんだ? もう一度言わなきゃ、わかんねえのか。しょうがないな、おんなじこと言うぞ」


『おまえの命が危ない!』


 青年は何かの冗談のように、大怒鳴りでがなった。


 まるでとってつけた三文芝居のようであるので、リオンは本気にしなかった。


「だから、働き者の間ではたいへんな人気者の騎士様も、貴族の間では……」


 リオンは息せきこんでチャンプの胸ぐらをつかんで揺さぶった。


「それどういう意味なんだ!」


 勢いで椅子の脚に蹴つまづいたチャンプが咳払いした。


「つまり、王の……」


 チャンプは一瞬、言葉をとぎらせた。


「とにかくおまえはこれ以上ここにいたら、危ないんだ」


 リオンは驚愕。


 とたん、おもての戸が音をたてた。何か硬いものがぶつかったような、そんな音が何回も続く。


 ふり返ると、チャンプの大きな手がさしとめた。


 不審に思ったリオンがそのまま戸口へ駆け寄ると、木の扉を無造作に引き開けた。瞬間、棒きれのようなものが暗闇からリオンの額をめがけて飛んできた。彼はとっさに身をかがめた。


 どうにかかわすと、今度は石が扉にぶつかった。


「リオン、戸を閉めろ!」


 勢いよく閉めると、派手な物音と重いなにかが転がるような振動が伝わり、戸がきしんだ。


「なんなんだ? あれはっ」


 リオンが問うと、イライラとチャンプは視線を左右に走らせた。


「おまえが男だってばれたからだ。とうとうかぎつけてきたな。わかっちゃいたけどよ!」


 呑みこめない様子のリオン。


「は? 俺は最初から男……」


「もういい」


 かすかな憂いを漂わせて、チャンプは窓によった。眉間には暗い影。


 窓には油を塗った紙が貼られている。青年はしっかりとカケガネをかけてからそこを離れると、リオンにつかみかかった。


 リオンはとっさに身をひいたが、強い力にひき寄せられてしまう。


 窓際で、チャンプは彼を強引に胸の中に包みこんだ。


 オレンジの光の中で、青年は素早くリオンの唇を奪った。

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