イライラしながら、リオンはもっと先をきいてやろうと考えた。


「それで、その娘がどうしたっていうんだ?」


 リオンには昔話をたらたらと聞いていられる余裕がなかった。


 きつく結ばれた胸紐に体が圧迫されてしまっている。せいいっぱい苦しいのを耐えて耳を傾けている。


 だから、二人のうちどちらにしろ、もうちょっと短く話してくれないと困る。


 だが女将は素知らぬ顔でつづけた。


「私もねえ、騎士様のご令嬢だし、てっきりそういうふうに呼ぶものだって……」


 リオンのかわりにチャンプが大声を出した。


「おふくろ、そこは省け!」


「ああ、そうかい。じゃ、あんたが言いなよ」


 女将が言うと、チャンプは一瞬黙った。


 腕を組み、首をかしげている。


「なんだって……? なにをどこからどう、話せばいいんだ?」


 途方に暮れた様子だ。視線が遠い。今度はうつむいて考えこんでいる。


「それが私にもわからなくって……ねえ?」


 同意を求められてもリオンは困るのだ。


 気の毒にも、その時点ですでに蒼白になっていたリオン、


「ごめん……あ、あの……この胸の紐、ほどいて……」


 もう、卒倒しそうだ。きつくてきつくてたまらない。


 ところがチャンプは面倒くさそうに巻き舌でまくしたてるのだ。


「それくらい自分でやれや。なんたって、もうすぐおまえの命が危ういんだからな」


「はあっ?」


 リオンはたまげた。

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