第九話あんたと同じだ
聖なるかな。
清らかな声が唱和する聖堂の丘に、リオンはシガールを連れて行った。
四角い石造りの、天上の低い家なみが灌木に混じって見えている。
清雅な香りのする祭壇の前で、二人は職を求めた。頭上にはステンドグラスの色彩が金色にきらめいている。
「なんでもいいんです」
「楽して稼ぎたいんだ」
後者はまぎれもなくシガールのものだ。
「楽なしごとなんてあるわけないだろ。なに考えてんだ」
リオンはシガールの膝の後ろを蹴る。
かくんと相手はバランスを崩した。
「言うくらい、タダじゃねえか、許してくれよ。べつに迷惑かけてないだろ」
門前払いされそうなことを、彼は白々しく言う。シガールとは……。
「だれのために、こんなところまで来たと思ってるんだ? あんたは」
肩をゆさぶったのに、シガールはとんと解せない顔をする。
「おたがいのため」
彼はそろえた指先でリオンと自分とを示した。
そうだ。彼はリオンの居場所をなくすくらい、傍若無人。遅くまで居座った宿を『帰ってもらえ』の一言で追い出されたのだ。無一文だからしかたがない。
そんなあわれな友人、もとい命の恩人を放っておけず、教会までやってきたというのに。
よっぽど殴ってやりたいのを我慢して、リオンは吐き出した。
「その通りだ。しごく、もっともな話だな、シガール。だがなんのために、かは、わすれていやしないだろうな? もしかして……」
つかみかからんばかりなのを、なんと思ったかシガールは……沈黙で応えて曖昧な視線を送ってくる。
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