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ボロキレは人々にけられたり、罵られたりしている。よく見ると人だった。首から大きな札を前と後ろに下げているではないか。
『音楽とスピリットをあなたに「コーデリア」』と文字が読みとれる。
その文字には見おぼえがあった。アドラシオン国に来て、最初に入ったことのある店。シガールと一緒だったあの酒場だ。
人の目を引くかっこうだが、風に吹かれたようにリオンの前までくると、まろびこけてしっかりと裾を握ってきた。
嫌な予感だ。
ずり落ちそうな衣装をおさえて、なにか言おうとしていると、ボロキレがものを言った。
「ちくしょう、あのやろう」
リオンはその声にも聴きおぼえがあるのだった。
「なにがあった? ……シガールさん」
はっとしたボロキレのような男が顔をあげた。その顔はやはりシガールだった。
「おお、リオン! リオン、どうした。こんなとこで逢うとはなあ!」
あたりを見回したり、我が身と彼とを冷静に客観視している暇はなかった。リオンはためらわずに口を開く。
「どうしたじゃない。あんたこそ」
「いやあ、きぐう、きぐう。いいところであったなあ。呼び捨てでいい」
シガールはしばいがかった仕草でリオンの肩をたたき、ひきよせた。
角へ入っていった車の方向に行こうとすると、シガールはなぜかいやがる。
「そこのはしへ寄れったら。シガール」
リオンは彼を人目のつかない場所へ呼んだ。
「シガール。なんだ? その姿。あれからなにがあって、そんなになったんだ」
すると彼はリオンを上から下まで奇妙そうな顔で見た。
「そりゃあ、おめえもだろうが。リオン。とにかくそっち方向はやべえんだよ」
さすがにリオンも今の自分の姿をさらしたまま、シガールと会話をするのは困る。
昼の鐘が鳴る。とっくに帰れと言われた時間だ。彼はシガールを連れてチャンプの宿へ戻った。
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