🔵


「またか!」


 音高く立ち上がったのを見て、チャンプはのほほんと器の中身を空けた。彼はのどぼとけを上下させて、あおむいた唇をなめる。


「それしかねえだろ? 喧嘩する体力もないくせしてよ」


『……それは……だれのせいだ』


 しかしよく考えてみれば、チャンプは彼なりに、気遣ってくれている。歩合給というのも、リオンに心苦しい思いをさせないためだろうし。厳しいかと思えば、適当にやれという。


 ――あんたってやさしいのか、実は。


 リオンがしんみり思ったとき。


「さあ、寝るか。朝寝だ、あさね」


 リオン独り働かせて、自分は朝寝?


「店は……?」


 不審げに聞くと、返答がこう。


「きょうは俺は休み。かわりにおまえが入ったから」


 青年はシーツにもぐりこむ。そしてさっさと高いびきだ。


 そういうものかもしれない。


 リオンはあきらめた。何を言っても相手が有利だ。しかたがない。


 限りないドジを踏んだ。再び通りに立つリオン。


 その彼の前に、不思議な動物が引く車が現れたのだ。


 優雅に通り過ぎていく。その変わった車はリオンの前で大きく向きをかえる。


 その生き物は全身金色で、黄褐色のたてがみだ。全身が長毛に覆われて、目は大きく、まつ毛が長い。複雑に編まれた尾は、ゆったりとした足取りにあわせて左右にゆれている。


 クルマの方といえば、きゃしゃなつくり。


 ホロもなにもない。乗客は身なりの良い人物だ。


 そちらを見ていると、車が曲がっていった角から、くたびれたボロキレのようなものが転がりだしてきた。

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