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「私が父親なら、そんななりをさせておくもんじゃあない。子供が長旅をするのに同行しないのはなぜだ? 生きちゃいないからだ」
しかしリオンは首をふる。
「そんな理由で人の親を殺さないで欲しいな。たとえ生きていても、同じことをしたよ」
さかずきを見つめる少年に、シガールがカウンターにのめるようにして、大きく肩を叩いた。
「そうかな? そうはすまい。……させないからな……あ」
彼は落ちつきなく、ひとさし指を眼前にかざした。目が据わり始めている。
「酔いすぎだ、おじ……」
「おおっと! 呼んでくれるな、おじ、の後はな……ここはシガールさんと呼んでくれ。でなきゃおごりはなしだ。ん?」
少年が間近で見ると、すでに表情がとろんとしている。
そうしてる間にシガールはあごから墜落し、さかずきを倒した。
リオンは支えながら自分もひっくり返った。
男の目玉がさかさまにリオンを見ている。彼は床に寝そべって、目を開けたままいびきをかき始めた。
「おじ……シガールさん、おごりじゃなかったのか?」
どことなし店主も困り果てた視線を送ってくる。酒場に酔うにはすこし早すぎたのだろう。
「んああー……? ぐおーっ」
「しかたないな」
べとつく指をリオンはなめた。机にこぼれてついたらしい酒の味は、舌に苦かった。
リオンはその場を支払って出た。
正直、途方に暮れた。
シガールはなんとなくめでたい人柄だが、一杯くわされた。
彼はまだ目を開いたまま意識不明だ。どうすればいい。
「宿をとるか……安いといいなあ。旅費に高くついたからな」
仕方なく休んでいると、通りすがりの壮年の男性が見かねたようにやってきて、人口泉の噴射口にシガールの頭をつっこんだ。
「ぶおっ、冷たあっ! な、なんだ?」
「酔いざましならこれくらいせにゃならんよ」
青い総髪の男性は言った。リオンがぽかんとしていると、にっこりと笑んだ。いい雰囲気の街だ。
「王都は初めてかね」
日に焼けた肌の男性は白い歯を見せていた。
「ええ、でも助かりました。ありがとう」
「いや。では私はいそぐから」
壮年の男性はそのまま立ち去った。
水しぶきを飛ばしながら、シガールが噴水でまだ悶えていた。あまりにおかしくて、リオンは腹を抱えた。まるで、カエルが溺れるまいと水をかくようだと思った。引きずり出すと、彼は目を瞬かせてしゅんとしている。
「こりゃいいや。さあ、酒代をとりたててやるぞ、シガールさん」
「お、おうっ? なんか目が回るがな」
「ははは……酔っ払いって、かわいいな」
半分やけになってその肩をかした。
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