2.
「ふぁ……。何もおかしくはないだろ、別に」
「どうした
布津が訝しげに訊く。
「え。ああ、うん。何と言うか……つい」
「なんだ、ヘンなやつだな」
「はは、そうかな」
*
布津から発せられた言葉に僕は一時的に唖然としてしまっていた。
それはいつもの布津を思えば予想外の一言だった。僕は当然何かツッコミが入るものと思って身構えていただけに、どうにも拍子抜けした感すらあった。
「というか、布津こそ昨日はどうしたのさ」
「うむ? どうした、とは?」
「いやさ、昨日の放課後は教室にも図書室にもいなかったなって」
*
そうなのである。
昨日現れなかったは、須奧さんだけではなかった。
布津も――そしてその他のクラスメイトたちもまた、昨日は授業後にその姿を見かけることがなかった。
僕と布津とは放課後、教室か図書室で落ち合って下校するなり雑談で時間を潰すなりするのが通例になっていた。どちらが特別に示し合わせなくとも、どちらかが近くに互いを見つけるのがつねであった。
それが昨日は――校内のどこを見ても出会うことがなかったのだ。
仕方なく僕はしばらくひとりで教室と図書室を行ったり来たりしていたのであるが、日がだいぶ傾いてきた頃合いになってもどちらにも会うこと叶わず、結局寂しさと虚しさを胸に覚えたまま帰路についたのだった。
*
「約束も守らないような人の相談なんか、兄さんがかかわることないでしょ」
……というのは、我が妹の言である。
あるいはその通りなのかもしれない。しかしもって、一度深入りしかけたことから中途半端に手を引くのも後味が悪い。それに、怪異関連で気にかかる事案が残っているというのもある。
そして毎度約束したわけでもないのに、ちょうど僕が帰る時間を見計らったかのごときタイミングで僕の部屋にいる(本当にいつのまにかいる)妹にこそ、僕は何かを言うべきなのではあるまいかとも思わないではなかった。
*
「誰かに居場所を尋ねようにも教室に残ってる人も見当たらないしさ……。どうしたものかって、なんか知らないうちに置き去りにされた気分だったよ」
「ああ、そりゃあ悪いことをしたな……」
布津はぼんやりとした声で言う。
実際、布津が僕に何も告げずにいなくなるのはめずらしいことだった。だいたいにおいて頼まなくとも同行してくるくらいであるのに。
*
「なに、何か急用でもあったの?」
「ええとだな――……ああそうだ、昨日はクラスの連中といたんだよな、うん」
「……同じクラスの人と?」
それは布津もクラスメイトたちと揃ってどこかへ行っていたということだろうか。
しかし――、ではいったいみんなで何をしていたのだろう。
「……あれ? そういやあ俺、昨日あれからどうしてたんだ……。ん――……?」
「布津……?」
言いながら唐突に頭を抱えて悩みだす友人に、僕は心のうちがざわつくのを感じずにいられなかった――が、
「やあやあ! おはようっ、
「おっはよーっ!」
溌溂とした男女の声に、湧き起こりかけた感情は寸断された。
*
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