第五章 壊れゆく絆

第六十五話 定例会議

 月に一度行われる定例会議が本堂で始まる。

 定例会議とは、大将と各部隊の武官が集まり、状況報告、作戦提案を行う場だ。

 これも、妖と戦っていくうえで必要なものである。

 参加人数は、五人だけであるため、極めて少ないが、共有する情報は極めて重要なものばかりだ。

 勝吏は警護隊と共に部屋へ入り、警護隊が、戸を閉めて警護に当たった。

 部屋にはすでに、勝吏を除いた四人が、集まっていた。

 勝吏は、奥の中央に着席した。

 その雰囲気は厳かで穏やかではない。緊張感が漂っていた。


「では、これより、定例会議を行うものとする」


 勝吏の号令の元、武官は静かに頭を下げた。


「まずは、警護隊・武官、鳳城真谷」


「はっ」


 真谷が呼ばれると用意していた文を広げ、読み始めた。


「北聖地区で、妖の出現は今の所はありません。結界に異常がないという証拠でしょう。警護隊の被害もなしでございます」


 あれ以来、警護が強化され、妖が侵入したという報告は入っていない。

 もちろん、千城家が結界を張っているからでもある。

 真谷は、結界に頼っているが、念のため警護を強化したのであった。


「なら、引き続き任務を。結界に異常がないからと言って油断せぬように」


「……承知いたしました」


 真谷は承諾するが、どこか納得のいっていない表情をしている。

 勝吏に指摘されたからなのか、それとも、別の理由があるからなのだろうか。

 勝吏は真谷の心情に気付いておらず、会議を続けた。


「続いて、密偵隊・武官、鳳城巧與ほうじょうこうよ


「はっ」


 鳳城巧與、真谷の息子であり、密偵隊の武官を務めている。

 柚月達と、年は変わらないが、最年少で警護隊に入り、武官となった経歴を持つ優秀な人物だ。

 だが、短所は、いつもうつむき、暗い表情である。堂々としている様子は見受けられない。

 巧與は、文を広げ、読み始めた。


「現在、取り締まりを強化したところ、反逆者を十名とらえました。牢獄にいる者も、異常なしです」


 成徳の件については、武官の真谷も密偵隊・武官の巧與も、衝撃を受けた。彼を野放しにしたことを軍師からも指摘されたくらいだ。

 二度とこのようなことがあってはならないと巧與は、悔しさをにじませ、部下に徹底的に監視するよう命じた。 

 そのためか、反逆者を発見し、十名とらえたようだ。

 反逆の理由は任務放棄。現在、牢獄にて監禁中である。

 そのことにより、巧與は自身の功績も上がっていると確信したのであった。


「そうか、反逆者がいたか。ご苦労であった。もし、反逆者を見つけたら警戒するように」


「承知いたしました」


 巧與は、誇らしげに文を置く。

 ようやく、認められたような気がしたからであろう。

 勝吏は、巧與に構わず、会議を続けた。


「続いて、陰陽隊・武官、鳳城逢琵ほうじょうあいび


「はっ」


 鳳城逢琵、真谷の娘であり、巧與の妹。陰陽隊の武官を務めている。

 逢琵は、陰陽術に関して優れた能力の持ち主であり、最年少で隊長に就任し、その後、武官となった。

 陰陽術は、天城家と互角であるとも言われている。

 彼女は、そのことに自身があり、巧與とは違って堂々としていた。


「討伐隊との連携もあり、陰陽隊の被害はありません。しかし、各地方に妖の動向が目立っているようです」


 聖印京付近に出現した妖は、ほとんどが討伐され、平穏が保たれている。

 陰陽隊は、常に討伐隊と連携し、妖を討伐しているため、被害がなかった。

 と言っても、陰陽隊の任務は、各地方の状況を報告することだ。遠い地方でも陰陽術ですぐに到着することが可能であるため、時間がかかる地域などの調査を進めている。

 その情報は、すぐに逢琵の元へ届くようになっている。連携は見事なまでと言っていいだろう。それゆえに、逢琵は、各地方の状況を把握していたのであった。


「そうか。では、この件に関して報告を問おう。討伐隊及び特殊部隊・武官、鳳城月読」


「はっ」


 月読が呼ばれ、文を広げる。 

 彼女の様子をうかがっていた真谷達は、なぜかにらむように、月読を見ている。まるで、彼女の事を認めておらず、歓迎していないかのように。

 そんな状況であるにもかかわらず、月読は平然として文を読み上げた。


「陰陽隊・武官のおっしゃる通り、各地方に妖の動向が目立っているようです。主に、西のほうで」


「……」


 討伐隊は、遠方の派遣は難しいと言われているが、月読は定期的に一部隊を遠方へと派遣している。詳しく状況を知るために。

 派遣された部隊の報告によると、確かに各地で妖の動向が目立っている。特に西で目立っているようだ。

 西地方は、派遣が少ないため手薄状態だ。今、西地方を攻撃されたら、西地方は壊滅状態の可能性が浮上してくる。

 これは聖印寮にとっては問題だ。

 逢琵は、そのことに関しては詳しく聞かされていなかったようで、不機嫌そうに口を曲げていた。子供のように。


「何か、策は考えてあるか?」


「はい。これにより、聖印京は朝廷と連携を組み、討伐隊の数部隊を西の都へ部隊を派遣することを提案します」


「だが、それでは、聖印京が手薄になってしまうのではないか?」


 真谷が月読の提案に対して、指摘する。

 確かに、討伐隊を派遣すれば、西地方も安全面は強化されるであろう。

 だが、そうなれば、聖印京付近、東地方は危機的状況に陥る可能性もある。真谷が不安視するのも納得がいくが、月読は話を続けた。


「心配はご無用です。特殊部隊がおりますから」


「特殊部隊で、うまくいくとでも思ってるの?討伐隊の数部隊分の力があるっていうわけ?なんなら、陰陽隊に任せてもいいのよ」


 月読は、派遣する特殊部隊の数部隊の穴埋めを柚月達に任せようとしている。

 柚月達ならば、任せることは可能であろう。 

 だが、逢琵は、納得がいっていないようだ。彼らの実力は認めているが、彼らだけで、補えるとは思っていないのだろう。

 そのため、ここぞとばかりに陰陽隊に活躍させようと逢琵が提案を仕掛けるが、月読は、その提案を断った。


「その提案は、とてもありがたいことですが、特殊部隊は優れた能力のある者たちで構成された部隊です。不足はないと確信しています」


「わからないの?彼らだけじゃ、信用ならないって言ってるの」


 逢琵は苛立ちを隠せず、月読に当たる。

 だが、月読はこの状況でも冷静だ。いや、冷酷と言っていいだろう。

 鳳城家の娘である逢琵に対して堂々と反論した。


「ですが、特殊部隊を発足してから被害件数も少ないはずですよ?書類に目を通されましたか?」


「……」


「彼らは、四天王を追い詰めた実績もあります。問題ないかと思いますが」


 柚月達の活躍により、被害は減少した。四天王も追い詰めた事も逢琵は知っている。

 逢琵は、もはや反論することができず黙っていた。

 こぶしを握り、怒りで体が震えるのを必死で抑えながら。


「でも、なんで、特殊部隊を発足させた?」


 ぼそっと、小声で反論したのはなんと巧與だ。

 意外な人物からの反論で、真谷達は驚いているが、月読は顔色一つ変えやしない。

 巧與は、それが気に入らないのか、反論を続けた。


「突然だったよね?理由を聞かせてほしいんだけど」


「鳳城朧が、天鬼に狙われていることがご存じですね?」


「そうだけど、それが何?」

 

 次第に巧與も苛立ちが隠せず、聞き返す。

 なぜ、月読の息子の話が出てくるのかと、それと何の関係があるのかと。


「当初は、朧を護衛させるために発足させました」


「……そうだったね。まぁ、天鬼に狙わてるんじゃあ、仕方がないか。でも、他の任務もやらせてるよね?ずいぶんと、信頼してるんだね」


 強引ではあるが、月読の答えに一応巧與は、納得した。

 特殊部隊の任務は鳳城朧の護衛。彼らはそう聞いていた。

 だが、成徳の件、四天王の件については、明らかに護衛としての任務ではない。

 結果はどうであれ、巧與は疑問を投げかける。

 まるで、月読を追い詰めるかのように。

 しかし、追い詰められたとしても月読は平然としている。

 むしろ堂々としていた。


「……朧を狙ってか、大量の妖が出現しました。討伐隊では困難を極めた為、特殊部隊に討伐させることとなったのです。結果、被害は減少されました」


「確かに、その通りだな」


「……」


 特殊部隊の任務に関しては勝吏も納得している。

 特殊部隊がいなければ、聖印京も危機的状況に陥っていた可能性があるからだ。

 最も、勝吏は、月読をかばっているのだが。

 勝吏も賛同されては、さすがの巧與も反論はできない。うつむいて黙ってしまった。

 これ以上の反論はないようだ。勝吏はそう確信し、話を続けた。


「では、月読の案を元に朝廷と連携を取り、討伐隊を西に派遣する」


「承知いたしました……」


 結果は、月読の提案を受け入れる形となった真谷達。

 だが、真谷達は悔しそうにこぶしを握り、震わせていた。

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