第五十三話 訳あり極秘任務
「ご、極秘任務って……?」
透馬は、恐る恐る矢代に尋ねる。
尋ねられた矢代は、なぜそんな質問をするのかというような顔つきを見せた。
「極秘任務は、極秘任務だよ。あの石頭……じゃなかった。妹には知られないようにしてほしいんだ。知られちまうと厄介だからね」
つまりは、厄介な任務であるということだ。
これで、なぜ、全員が屋敷に呼ばれたのか理由が判明した。透馬の嫌な予感は当たってしまったのであった。
どんな任務なのかと柚月達は、警戒を始めるが、矢代は、安心させようとにこやかに説明し始めた。
「まぁ、そんな難しい話じゃないさ。事件をさっと解決してほしいってだけの事だよ。あんた達の実力ならできるだろうしね。なんたって、四天王と互角に戦ったんだ。心配ないよ」
「いや、そういう問題じゃ……」
透馬はやんわりと矢代の意見を否定するが、矢代が透馬をぎろりとにらみつける。自分の意見に従えないのか?と言わんばかりの。
にらまれた透馬は、蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまい、それ以上否定することができなくなってしまった。
もはや、従うという選択肢しか残されていなかった。
「はい。そうですね。僕たちならできます」
透馬が、あきらめたように言うと、矢代はうんうんとうなずいた。
柚月は、矢代の頼みであるなら、受けたいところであったが、一つ問題があった。
今の彼には宝刀がないことだ。宝刀がなければ、何かあった時に対処のしようがない。
「しかし、俺には、宝刀が……」
「そこは、問題ないさ。うちの新作を貸すから。ほら」
宝刀がないことを懸念した柚月であったが、矢代は、その懸念を吹き飛ばすかのように、あっさりと柚月にあるものを渡した。
それは、白銀の短刀であった。矢代が作った宝刀の一つであろう。
光を浴びた刃はとても美しく光っている。まさに名作とも言える代物であることは柚月達も気付いていた。
さすがは、天才鍛冶職人だ。
「名は、
「ありがとうございます。任務が終わり次第お返しいたします」
柚月は天月を手に取り、借りることにした。
「ちょ、ちょっと待て、柚月!それ、借りるってことは……」
「もちろん、その極秘任務を遂行するつもりだが?」
天月を受け取った柚月に対して、透馬は、慌てて制止する。
柚月が天月を借りるということは、極秘任務をやると承諾したようなものだ。
その極秘任務は一筋縄ではいかないと透馬は、予測しており、自分達がやるべきことではない気がしていたようだ。
あの月読に内密でやらなければいけないほどなのだから。
「待て待て!内容とか聞いてないのにか!?ちょっと、よく考えて……」
「何か問題あるのかい?透馬。隊長が承諾したんだ。それに従うのが部下ってもんだろう?」
「はい、その通りです……」
柚月に考えてから、承諾するよう説得するが、矢代はにこやかに透馬に尋ねる。
彼女の笑顔を見た透馬は、再び反論することができなくなり、仕方なしに承諾するしかなかった。
透馬に選択の余地など全くない。矢代に従うしかないのであった。
恐ろしくもおかしな親子のやり取りがあったが、気を取り直して、綾姫は矢代に尋ねた。
「それで、その極秘任務と言うのは……」
「ああ、そうだったね。
「あの華やかな街ですね~。一度だけ両親に連れていってもらったことがあります」
景時は矢代に対してもにこやかに答える。
透馬は、景時をうらやましく思い、同時に恐ろしく感じた。矢代に対しての恐怖心というものはないのかと……。
ちなみに、華押街は、景時の言う通り、賑やかで華やかな街だ。
聖印京から少しはなれた場所にあり、小さな街ではあるが、華やかであるがゆえに、多くの人がその街に集まる。
聖印京のように屋台が並び、夜になっても賑やかだ。別名・夜の街と言われていた。
「華押街にあたしの知り合いが住んでてね。ちょいと困ったことがあるらしいんだ」
「妖関係ということでしょうか?」
「その通りだよ」
夏乃の問いに矢代は、答える。
極秘任務ということは妖の事だろうとうすうす気づいていたが、やはり思った通りだった。
答えを聞いてしまった透馬はため息をついた。
もちろん、矢代に気付かれないように。
「妹に依頼をしたいところなんだが、あの石頭には頼めない事件でね。で、あんた達に頼みたいんだ」
月読に頼めない事件と言うのは一体何なのだろうか。
柚月達は、疑問が浮かび上がったが、その問いを聞く前に、矢代は、話を続けた。
「まぁ、詳しいことはあたしの知り合いに聞いとくれ。あ、そうそう。九十九の事は知り合いには話してあるから。安心しときな」
九十九はピクリと動く。
自分が妖狐だということを矢代に気付かれないように黙っていたが、よくよく考えれば、透馬が自分のことを矢代から聞いたということを今、さっき思いだした。
やはり、九十九は馬鹿であった。
「そう言えば、矢代は俺のこと知ってたんだな」
「あの石頭から聞きだしたからね。あんたが馬鹿だってことも」
「馬鹿じゃねぇよ!」
九十九は声を大にして、否定するが、柚月達はその通りだと思っている。
肯定しないのは本人だけであって、周りは九十九は、馬鹿だと認識していた。
だが、これで、九十九も心置きなくその依頼人の前でしゃべることもできるであろうと考え、安堵していた。
「これ渡しておくよ」
矢代は、柚月にあるものを渡す。
それは、地図と依頼人の名前が書いてある文だった。
「それじゃ、頼んだよ」
矢代は、微笑んで柚月達に依頼した。
こうして、柚月達は極秘任務を開始した。
しかし、この時、柚月はまだ知らなかった。
極秘任務を承諾したことにより、自分に災難が降りかかってくることを……。そして、自分に降りかかる災難が、黒歴史になるほどとてつもなく恐ろしいことになるということを……。
柚月達は、天城家の屋敷を後にし、一度、立ち止まった。
依頼人の名前と地図を眺め、目的地を把握するために。
「依頼人は骨董品屋・椿の店主・
「姉さんと同じ名前だね。偶然かな?」
「そうだろうな」
骨董品屋の名前は、姉・椿と同じ名前だ。
そんな偶然もあるんだなと思ったが、椿と言う名はよく聞く名前だ。
その店の名が、姉と同じ名前であっても不思議ではないと思う柚月なのであった。
「ねぇ、景時。その骨董品屋が、どんなところなのか知ってるのよね?」
「うん。聞いたことはあるよ。とっても美人な女の人がやってる店なんだって。珍しい品物が置いてあるらしいよ。しかもその人、西地方の出身の人らしくてね。しゃべり方が西地方っぽいんだって」
西地方の人々は、聖印京を含めた東地方の人々とは違ってはんなりとしててゆったりとしたしゃべり方が特徴的だ。
そのため、しゃべり方で出身地がわかる。
聖印京には西地方の人間はあまりいないが、それ以外の街や村には西地方の人間が住んでいると柚月は聞いたことがあった。
そんな他愛もないやり取りをしていた柚月達であったが、透馬の顔色は優れない。
あの矢代に強引に話を進められてしまったからであろう。
「なんで、こうなったんだか……」
透馬はこれで何度目かと思うほど何度もため息をついていた。
そんな透馬の心情はさておき、柚月達は、華押街へ向かおうとするが、景時は、何か思いついたように「あ」と呟き、柚月達は、立ち止まって、振り向いた。
「そう言えば、柚月君。ちょっと、里帰りしていい?」
「それは、いいが、どうした?」
「うん。天次君を迎えに、ね」
天次を迎えに行くために、景時は柚月達を連れて、里帰りと称して蓮城家の屋敷に帰ってきた。
蓮城家の屋敷は、天城家の向かい側に建っている。蓮城家も天城家同様、倉庫が多く。山が近くにあった。
「さあ、どうぞ」
景時に案内され、柚月達は蓮城家の屋敷へ入る。
彼らの目の前には、一人の老人が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。景時様」
景時を見るなり、老人が景時の元へ駆け寄り、頭を下げる。
どうやら彼は奉公人のようだ。
景時はいつものようににこやかな表情で老人を見ていた。
「ただいま、
「はい。完全に回復しているようです」
老人の名は、
景時は幼い頃から白冷と共に過ごしており、医療の知識を習得で来たのも彼の教育あってのことだ。景時にとって、彼は奉公人ではなく、家族のような存在だ。
最も、白冷は、自分は景時の奉公人だと思っているようだが。
ちなみに、天次は、四天王との死闘以来、ある場所で休ませていた。
幾度となく、景時と共に大量の妖と死闘を繰り広げたため、体力が奪われ、眠りについてしまった。
体を休ませるため、一度蓮城家のある場所で彼を眠らせていた。
「それは、良かった。じゃあ、彼のところに行ってくるね」
「お、お待ちください。景時様!」
白冷は慌てた様子で景時を止める。
だが、肝心の景時はなぜ、止められたのか、わかっていない様子であった。
しかも、にこやかな表情で。
「ん、どうしたの?」
「ゆ、柚月様方もあそこにお連れになられるのですか?」
「うん、そうだよ」
景時はにっこりと笑ってうなずく。
白冷は何かためらっているようだったが、意を決したかのように景時に語りかけた。
「そ、それは、お止めになられたほうがいいかと……」
「大丈夫だよ。心配しなくても。彼らは襲ってこない。それに、蓮城家の事を知ってもらういい機会だし」
「そうですか。景時様がそう仰られるなら……」
白冷は景時を制止しようとしたが、景時はいつものごとくにっこりと笑って諭す。
景時がそういうならと白冷は、それ以上反論せず、景時に従った。
白冷と別れた柚月達は、白冷の様子が気になっていた。
なぜ、景時を止めようとしたのか。天次がいる場所は一体どのようなところなのか。何か問題でもあるのだろうか。襲ってこないというのは。と様々な疑問が浮かび上がったため柚月は、それとなく景時に尋ねた。
「景時、なぜ、白冷は慌てていたんだ?」
「まぁ、事情があってね。見ればわかるよ」
景時はそういうだけで詳しいことは話さない。やはり、何か事情があるようだ。だが、景時も、しっかりと考えて柚月達を案内するのだろう。
柚月達は、景時にそれ以上何も尋ねなかった。自分達の眼で見たほうがいいのであろうと判断したからであった。
「さあ、着いたよ」
柚月達は、とある場所についた。
そこは、倉庫のようであった。
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