第26話

 二十歳を超えた今でも、私は夏祭り前の二週間、太鼓の練習場に通っている。子供たちを指導する「先生」として。タツヤやヒロくんやユミは小学校を卒業した途端、太鼓の事なんてすっかり忘れてしまったのに。

 子供好きなのか人が良くて押しつけられるのか、あれからずっと同じおじさんが「ちびっこ会」の役員をしている。私を泣かせた事なんてまるっきり忘れているらしく、

「なっちは小さい時から飛び抜けて太鼓が上手かったもんな。」

 なんて平気な顔で言う。

 今になってみればおじさんの気持ちも分かるのだ。同じ学年の子は同じ扱いにしないと、親たちが黙っていない。他の四年生が実力不足だったからといって、私だけをやぐらに上げる訳にはいかなかったのだ。

 でも私は十分に気を付ける。子供たちに必要以上の期待を持たせて、後でガッカリさせないように。大人にとっては「毎年ある夏祭り」でも、子供にとっては「今年だけの夏祭り」なのだ。

 私みたいに傷付いて、そのあげく二度と会えない男の子を思い続けるようになったら、事だ。


 私は大人に、なった。

 一太、も?


 今年の夏祭りが終わったら、走り出してみようか。

 暗い方へ、暗い方へ。アスファルトのない、星の綺麗な場所へ。


 一太は粋な半てん姿で、鉄を熔かして丈夫な釜を作っている。

 いつ私が来ても良いように。

 待っている。

 きっと、待っている。

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その音の響く夜に 柳屋文芸堂 @yanagiyabungeidou

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