第22話

「この川沿いのどこかなのは間違いないんだがなぁ。」

 二人が出会った時と全く変わらぬ大きな川のながめ。しかし夜明けが近いので、あたりの空気はほんの少しだけ光を含んでいた。

 白みつつある濃紺の空に残る星は、ちらちらと頼りなげにまたたく。

「あっ。」

「どうした?」

「街灯。」

 なっちは川のほとりの一点をじっと見つめた。

「まだ暗いけど、戻れそうか?」

「うん。帰りたい、って思ったから、きっと大丈夫。」

 遠くの方から初午太鼓の音が聞こえる。幾重にも重なって響く「チャカマカチャン」ここら一帯に点在する全ての鋳物の細工場で、初午の祭りが続いているのだ。

「地面が揺れてるみたいに感じる。すごいね。」

「朝まで打ちっぱなしだ。」

「最後までいられなくて、ちょっと残念だな。」

 一太となっちはお互いの顔を見た。二人とも同じ表情だったので、少し、笑った。

「太鼓、楽しかったよ。」

「俺もだ。」

「一太、とってもかっこ良かったね。」

「なっちもここで育ったみたいに上手かったぞ。」

 本当にここで生まれたんだったら良かったのに、となっちは心の中だけで言った。それがほんの少しだけうそだと、知っているから。

「なあ。」

「ん?」

「もし俺が大人になったら……。西行をして、色んな細工場で働いて、またここに戻って来たら……。」

 きっと今、一太の耳は真っ赤になっている。見えなくたって感じる。何を告白しようとしているのか、分かる。

 本当はすごく聞きたいけど、一太の言葉が聞きたくて仕方ないけど、聞かない。

 私はここにいるべき人間じゃない、のだ。

「私、大人になったら一太の作ったお釜を買うね。」

 一太の目が迷っている。喜んで良いのか悲しんで良いのか。

 きっと寂しさが一番まさっている。でも、かまわない。

「毎日美味しいご飯が炊けるよ。」

「……おう。」

「立派な鋳物師になってね。」

「おう。」

 なっちはさよならも言わずに走り出した。絶対に流すまいと決めていたはずの涙がポロポロとこぼれて、しかしそれをもみ消そうとはもうしなかった。

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