第14話

 一太にうながされて細工場の外に出ると、もう日が落ちてしまった後で、あたりはすっぽりと夕闇に包まれていた。

 細工場の敷地内にはお稲荷さんの小さなほこらがある。赤い鳥居が幾重にも重なっており、その横で一太はくるりと振り返った。

「お前、太鼓を打ちたいって言うけど、やった事あるのか?」

「あるよ。」

 なっちは「当然じゃない」というように、あごをつんと突き上げて見せた。

「ここでちょっと打つまねしてみろよ。」

「分かった。」

 なっちは即座に足を大きく広げ、地べたをぐっと踏みしめた。そして緊張も吹き飛ばすほど集中し、見えない太鼓に向かってこぶしを振り下ろした。

 太鼓やバチがなくても、上手にやれる自信がなっちにはあった。何しろ、家ではいつもおはしや物差しを振り回して練習していたのだから。これまでに考え出した「工夫」を全部詰め込んで、なっちは堂々と「打ちまね」をやってのけた。

 一太は腕を組んでその様子をながめていたが、やがて、感心したように何度かうなずいた。

「確かに腰が据わってるな。でも……」

「でも?」

 なっちは一太をキッとにらみつけた。

「いや、そんな怖い顔するなよ。お前の腕前にケチをつける気はさらさらない。ただ、打ち方が俺たちと違う気がするんだ。」

「えっ。」

 意外な言葉になっちは茫然とした。それまでなっちは「太鼓の打ち方は全国共通」とかたく信じていたのだ。

「だって、こうしないと曲に合わせられないんじゃない?」

「曲? 何だよ、曲って。」

 今度は一太が目を丸くした。

「『炭坑節』とか『大東京音頭』とか……。とにかくお祭りっぽい音楽をラジカセから流して、それに合わせて太鼓を打つの。」

 なっちはそういう太鼓の使い方しか知らなかった。でも一太の反応から、うすうす自分の間違いに気付き始めた。

「悪いが、初午太鼓の打ち方はそうじゃない。太鼓を七つばかり並べて、いっせいにたたくんだ。チャカマカチャン、チャカマカチャンチャンって。唄や囃子は一切付けないぞ。」

「チャカマカ……」

 なっちにはその演奏が一体どんなものになるのか、想像すら出来なかった。けれども、打ちたい、何としてでも太鼓を打ちたい、という気持ちだけは、ふつふつとわき出て消えるはずもなかった。

「私、練習する。他の子たちよりずっとずっと上手くなってみせる。教えてくれるでしょう? 一太。」

「ゲンコツが飛ぶかもしれねえぞ。父ちゃんみたいに。」

 そんな荒っぽい動作と全く釣り合わない明るい笑顔で、一太は言った。

「何されたっていい。私、頑張るよ。」

 なっちはゲンコツも真に受けたような眼差しで、一太を見つめた。

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