第9話

 木製の小さなお膳が三つ並び、その上に朝食がそろえられた。

「美味しい!」

 なっちはご飯と味噌汁を一緒に飲み込んで、すぐさまこう叫んだ。

「オツケがそんなにうまいか?」

「うん!」

 カチャカチャと茶碗を鳴らし、せわしなくかっ込むなっちの姿を、銀は見慣れない動物を見るような目でながめた。

「これ、麦ご飯だね。」

「まさかそれも珍しい訳じゃねえだろうな。」

「ううん。給食にたまに出るよ。プチプチしてて大好き。」

 それを聞いて銀は声を立てて笑った。なっちは味噌汁に浮かんでいる油揚げをはしでつまみながら、何故一太のうちの朝食はこんなに美味しいのだろう、と考えていた。

「分かった! しょっぱいんだ。」

「『吹き』でびっしょり汗をかくからな、わざと塩っ辛く作るんだよ。」

 おかわりした分も食べ終わり、なっちはたくあんをコリコリ噛んだ。空っぽになった茶碗の中に、一太がお茶を注いでくれた。

「ありがとう。」

 のどが渇いていたのですぐに口を付けたが、熱くてとても飲めない。仕方なく茶碗をお膳に戻し、ずっと気になっていた事を尋ねた。

「お母さんはどこかに出かけているの?」

 その言葉が発せられた途端、時が止まったかのように、一太と銀の動きがぴたりと止まった。なっちはそれが触れてはいけない話題であると悟り、「しまった」という顔をした。

 一太はこういう場面に慣れていた。だからなっちが自分を責めたりしないように、表情をやわらかくして、言った。

「うちは母ちゃんがいないんだよ。」

 一太の大人びた気づかいは、なっちをいよいよ後悔させた。

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