第7話

「おい。おい。」

 背中を揺すぶられたような感じがして、なっちはうっすらと目を開けた。

 自分の背中に触れているのは、一太の骨張った背中だけだ。ぼんやりした頭で考えるに、揺すぶられているのはなっちではなく、一太の肩のようだった。

「おい!」

 今度は大人の男の低い声にどきりとし、自然にぱっちりと目が覚めた。声のする方に顔を向けると、つやつやと光る褐色の腕が最初に見えた。

「何で子供が一人増えてるんだ。おい!」

 視線を上げてゆくと、一太によく似た男が片ひざを立てて座っている。

 これが一太の「父ちゃん」か……。

「んー。」

 一太はガバッと起き上がり、両腕を上に挙げて伸びをした。

「迷子だよ、迷子。昨日、砂を採って来た帰りに見つけたんだ。」

 なっちは他人の家の布団で寝ているのが急に申し訳なくなって、あたたかな掛け布団を体から引きはがし、敷布団の上に正座した。肌に直接触れる冷たい空気に、ブルッと体を震わせながら。

 銀は「弱ったな」というような表情で腕を組んだ。そしてなっちの顔をじっと見つめ、言った。

「悪いが今日は『吹き』の日でね、お前さんのうちをさがし回るって訳にいかないんだよ。」

「フキ?」

「火を起こして鉄を熔かす事をそう言うんだ。」

 一太が嬉しそうに説明する。銀は渋い顔のまま続けた。

「おまけに初午が近いと来てる。そのしたくもしなくちゃならねえ。」

「ハツウマ?」

 一太と出会ってから、一体いくつ新しい言葉を聞いただろう、と思いつつ、なっちはまた尋ねた。

「お祭りだよ。」

「えっ、お祭りがあるの!」

 なっちの目がキラキラと輝いた。

「太鼓は? 太鼓たたく?」

「ああ。打つよ。」

 一太と銀がそろってうなずきながら答えると、なっちは勢いよく立ち上がった。

「私も打つ!」

 三人の間にしばしの沈黙が流れた後、銀がつぶやいた。

「初午までここにいるって事か。」

 そこまで考えてはいなかったが、お祭りで太鼓を打つにはそうするより他はない。なっちは力強く首をたてに振った。

「ま、親がさがしに来るまでじっとしてるっていうのも、一つの手だよな。」

 銀は初めて口もとに笑みを浮かべた。「しょうがないな」という気持ちのこもったものではあったけれど。

 一太となっちは二人とも、何か面白い事が始まる予感がして、ドキドキしていた。

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