第81話 父は教授です

「例年通り、俺は明日から半年公都で過ごすから、

今日はどこか行こうか。」


父がそう言ったのは秋も深まった頃、

木々が色づき、大分涼しくなった日の朝であった。


父の言葉を聞いて、僕は思う。

そうか、今年は明日からなのか。

というのは、父の仕事についてである。

父は魔法研究者で、この前行った国立大学の魔法科の教授でもある。

なので勿論講義を担当するのだが、

この家から公都までは通うには遠すぎる。

普通なら公都に住居を持って働く所だが

父は学長と交渉してこんな協定を結んでいた。


『大学は二期制なので、講義を受け持つのは半期で良い。

その間は大学の寮舎で生活しても良い。

その代わりに、もう半期は自宅で研究を進めること。

毎年の学会週間でそれを必ず発表をすること。』


初めて聞いたときはなんだその参勤交代みたいな変な勤務の仕方は……

と思ったのだが、実はこういう務め方をしている教授は

他にも何人か居るらしい。

一瞬、半年しか働かなくていいのか、楽そうだな、と思ってしまうが、

自宅の半年プラス大学の半年の計一年で

学会の発表に値する研究成果を出すのは

かなり大変なことである。

好んでその茨の道を歩く父は、

家族思いと言うべきか、変人と言うべきか……

まあ、そういうわけで父は半年ごとに家と公都とを往復しているのである。


「そうですね。どこにしましょうか、アヤト。」


どこに行くかか……一日で行って帰って来られるところじゃないといけないんだよな。

この村の周りで、行ってみたいところを頭に浮かべていく。

魔導具店、魔導具店、そして魔導具店。

……じゃないな、うん。さすがにこれはだめだろう。

どこか、家族で行くようなところは……

そういえば、初めて家族でピクニックみたいにして行ったのはアルヴ草原だったんだっけな。

あっ、そうだ


「アルヴ平原の川って行ったこと無いよね。

そこ行きたい。」


「そうか。この時期だとさすがにもう泳げないと思うがいいか?」


「うん。」


そう答えると、父は言う。


「分かった。じゃあ早速出発しようか。」


えっ、まだ何も準備してないのに?

もちろんそこに母が待ったをかける。


「オスカーさん、ちょっと待ってください。

お弁当の用意をするので。」


「おお、そうだった、忘れていた。」


父よ……


その後三十ミニ程で準備を整えてから出発したのであった。

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