第74話 ベッドの上は退屈……ではなかったようです1

「アヤトくんっ。」


夕日の差し込む病院のベッドの上で寝ていると、

誰かが駆け込んできたようだ。




偽装誘拐事件があったのは昨日のこと、

地下から助け出された僕は病院に担ぎ込まれた。

瓦礫が直撃した両足をてもらうと、


「うん、それだけ動かせるなら多分骨は折れてないね。

けど、これで固定して安静にすること。

とりあえず、三日ぐらいは経過を診るから泊まっていってね。」


とのこと。

そのまま入院という流れになったのだが、

やることが無くてつまらない。

せっかくの公都なのに……


今日は父は学会に出席、母は事情聴取のためギルドに行っているため僕一人だ。

仕方が無いので身体強化の練習をやり続けることにした。

脚までやるとどんな影響があるか分からないと

父に止められていたので両手だけだが。

それでも半日もやればかなり精神を消耗する。

それで疲れて寝ていたところ――




「ぐぇっ。」


「大丈夫っ、アヤトくんっ。」


腹に衝撃を受ける。


「ちょっ、まっ、大丈夫っだからっ、

落ちっ着いてっ、ミリアちゃん。」


必死に声を出すと、ようやくミリアちゃんは僕の腹をガンガン押していた両手を離す。

……痛ぇ。クリティカルヒットしていたんだけど……。

お腹をさすりながらミリアちゃんに話しかける。


「心配かけてごめんね。

でもほら、見ての通り……だと大丈夫に見えなさそうだけど、

骨も折れてないし大丈夫だよ。」


包帯の巻かれた脚を指差す。

すると、なぜかミリアちゃんは僕の脚を撫で始めた。


「ミリアちゃん?」


なぜか撫でることに集中している

ミリアちゃんには聞こえなかったようだ。

そして、小声でなにかつぶやき始めた。


「い…たいの……い…たいの……と…んでけー。」


痛みじゃなくて意識が飛んでいきそうになった。

咄嗟に顔を窓の方に向ける。


――夕日に照らされた公都の通り。

仕事帰りの人や買い物中の人、

たくさんの荷を積んだ荷車などが行き交う。

店の呼び込みの声や行き交う人々の声が聞こえる。

広場からだろうか、かすかに楽器の音も風に乗って流れてくる。

ああ、平和だな。

……よし、落ち着いた。


無駄な思考で心を落ち着かせたところで……


「ぷっ、くくくっ。」


「ミレナさんっ?いつからそこにっ?」


「ミリアが入ったすぐ後よ。

ミリアばかり見ていて気付いてなかったのねー。

……そうだ、アヤト君。」


「なんですか?」


「大きくなったらミリアをお嫁にあげようか?」


「ちょっ、冗談は――」

「お母さんっ――」


「はははっ、とりあえず今は冗談って事にしておくわ。

それにしても、やっぱりアヤト君は面白い子ね。」


ミリアちゃんと一緒に動揺する僕。

まったくもう、ミレナさんは。




その後しばらく話をしてから、二人は宿に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る