第70話 地下からは脱出です2

「なんで皆固まってるんだ?」


疑問を呈する父。

どうやら認識の齟齬があるみたいだ。


「お父さん、公都に王城なんてあったっけ?」


「いや、今は無いぞ。」


「じゃあ王城って言ったのは?」


「ああ、多分オスカーが言っているのは

この国が王国だった頃の王城だと思う。」


フリッツさんが補足する。

そういえば、いつか読んだ本にそんなことが書いてあった気がする。


「フリッツ、そこまで分かってて

なんでおまえらは固まってたんだ?」


「いや、王城にこんなところがあるなんて聞いた事無いし

そんなことが書いてある文献も見たこと無いしな。

おまえがここを王城だと判断した理由が分からんからだ。」


「はははっ、何言ってんだフリッツ。

うちの書庫にある本に書いてあったぞ。

その中に王城地下の地図も載ってたんだが。」


「はぁっ?」


みんなが目を見開く。

書庫か……、昔の記憶をたどる僕。

そういえば、建物の設計図が書いてある本がたくさんあったような……


「で、大学の長期休暇に探険してみたんだ。

ここは小部屋の配置とかに見覚えがある。

だから、同じところだろうと判断したわけだ。

あのときは保護の観点からも隠し扉は動かさないって決めてたけど、

あの水路につながっていたとはなぁ。」


しみじみと言う父。

母もネロさんもフリッツさんもそんな父に呆れている。


「ってことはなんだ。

出口知ってるのか?」


「ああ、もちろん。

崩落で埋まってさえいなければ出られるぞ。

っと、聞くのが遅れたがそっちの女の子が依頼にあった女の子か?」


そうだ、父登場からの流れですっかり忘れていた。

ディーさんが父とフリッツさんに今までの説明をしていく。


「そうか……」


父はそうつぶやく。

そして、


「歴史的価値のあるところを悪用して、

こんなめちゃくちゃにするなど許せんっ。」


と叫んだ。


……怒るところそこかよっ。

確かに……確かにそうだけど、

もっと先に怒るところがあるでしょっ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まだ時々地響きが聞こえてくる。


「それにしても、こんな事を起こす仕掛けは一体なんなんだ。」


父の案内で出口に向かう途中、父はそう言う。


「本には書いて無かったの?」


「ああ。少なくとも俺が読んだ本には無かったはずだ。

まあ、罠の位置とかも書いて無かったからしょうがないんだが。」


そこにディーさんが口を挟む。


「十中八九、自滅覚悟で敵を生き埋めにしようとする仕掛けだろう。

どっかの遺跡で同じようなのが一部屋に仕掛けられていたはずだ。

それにしても……造った奴正気か?」


この崩落は一種の自爆設備だったらしい。


「今回は運が良かったな。

この様子だと本当は部屋から通路まで全部埋める仕掛けっぽいからな。

多分経年劣化で一部が動かなかったんだろう。」


まじか……


「ええっ、そんな危険なものだったの。

全部動かなくて良かったぁ~。」


チェルミナさんがホッとしている。


そんな会話をしていると、前方に階段が見えてきた。


「おっ、あの上が出口だぞ。」


父が言う。


「ようやくか。」


ふぅ、と息を吐き出すディーさん。

皆の間に弛緩した空気が流れる。


その時、

一際ひときわ大きな地鳴りが聞こえてきた。

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