第63話 アジトは地下です2

こちらに向かって来る、刺突剣を持った男。

それを見ながら僕は父の言葉を思い出していた。




「いいか、アヤト。絶対に相手の攻撃から目をそらすな。

ちゃんと見てないと避けられるものも避けられないからな。」


そう言うと貫手ぬきてを放ってくる。

その勢いに、僕は目をつむってしまう。


「言っただろ、ちゃんと見てろと。

目を開けろ。」


僕が目を開けると、

父の手は僕の腹の前で寸止めされていた。


「もう一度いくぞ。今度こそしっかり目を開けてろよ。」


「はい。」


再び父の手がとんでくる。

やっぱり怖いが、我慢して父の手を見続ける。

その手が僕の腹に突き刺さる直前、父が叫ぶ。


「右前に踏み込めっ。」


父の大声に驚き、日々の練習のお陰か

半ば自動的に僕は右足を踏み出していた。


「どうだ。躱せただろ。」


僕の身体の左を父の手が突き抜けている。


「直線的な動きならこれで避けられるはずだ。

相手が走りながら武器を打ちだしてきたり、

おまえを舐めているようなら

ほぼほぼこんな真っ直ぐな攻撃になるだろう。」


そう言って、再び構え直す父。


「しっかり練習するんだぞ。」




目の前には男のレイピアが迫っている。


「アヤト君っ。」


とチェルミナさんが叫ぶが、大丈夫だ。


僕は右斜め前に右足を踏み出す。

僕の左側を通過していく剣先。

剣を突き出した男は目を丸くしている。


こんなのは簡単に回避できる。

どれだけ練習してきたと思ってるんだ。


そのまま、左手を突き出す。

背が足りずに頭までは届かないので心臓部を狙う。

怪我をしないために

また、男が何かしてきても対応出来るようにするために

掌打を選択する。


体勢を崩しているとはいえ、

相手も戦い慣れているのかうまく身体をずらす。

そのため、僕の掌底は当たりはしたものの芯を外した感触が返ってくる。

それでも効果はあったようで、

男をふらつかせることができた。

こうして、時間を稼げば……


「アヤト君、ナイス。」


チェルミナさんが剣を持った男に氷弾を撃ち出す。

かなりの弾数が当たる。

そこにチェルミナさんが追撃を仕掛けようとしたところで

ナイフを投げようとしている男が視界の隅に映った。


「チェルミナさんっ。」


咄嗟にチェルミナさんの方に走っていって、

投げ技の要領で伏せさせる。

頭の上を飛んでいくナイフ。


危機は脱したのだが……

こちらの隊列には穴が空いてしまった。

そして、三人の男はそこを走り抜けていく。


「待てっ。」


「また」「ない」「よー」


逃げていってしまう男達。

そのとき、後ろから炎弾が男達の方に飛んでいくが

躱されてしまったようで、男達は通路の角の向こうに消えていく。


「ちっ、ミスっちまった。逃げられたか。」


後ろからディーさん達が出てくる。

ネロさんが魔導具を構えているから

あの炎弾はネロさんが撃ったのか。


「すまん、おまえ達を危険な目に遭わせちまった。」


「いや、大丈夫ですよ。」


謝るディーさんに僕はそう応える。


「それよりも、追いかけますか?」


「……いや、このまま先に進む。

一刻も早く救出しないと女の子が何をされるか分からんし、

別れて行動すると挟撃されたりいざというときに

対応できなくなるからな。

みんな先に進んでも大丈夫か?」


全員頷き、準備を整える。

そして、駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る