第24話 林の中は危険です4

右、左、右、回して右。


「……おい、レン。そっちは大丈夫か?」


「……っ、はい、なんとか。」


戦い始めて二十ミニ。

いくら相手の行動がわかりやすいとはいえ、

いかんせん数が多すぎる。

しかも、普通は単調に仕掛けてくるが、少し隙を見せると

いきなり複数で襲ってくるような相手のため、

常に気を張っていなければならず、集中力が削られていく。

さらに、後ろには守るべき仲間や子供がいるため、

いつもとは違う立ちまわりを強いられ、

体力も徐々に失われていく。


レンの方も同じような感じだろう。

いや、レンは本来なら中衛遊撃役なだけあって

前衛には向いていない分、俺よりもつらいだろう。


少し、レンの方に気が散った瞬間、三匹同時に攻めてくる。


「ちっ、やっかいな。」


即座に対応して、一匹に怪我を負わせるが、三匹ともまた距離をとる。

後衛がいないのもつらいところ。

子供達を見ると全員で集まって、しゃがんでいる。

怯えているのか?まあ、この状況じゃ仕方ないだろう。


「レン、何か思いついたか?」


「いや、全然思いつきません。」


一匹しとめつつ、レンに聞く。

これでようやく二十匹目だが、やはりこれじゃあ、持たないだろう。

背後が岩壁であるお陰で三方向からしか攻めてこれないのが救いではある。

俺が二方向担当し、残りのもう一方をレンが担当する。

この方法でなんとか耐えてきたが、このままじゃジリ貧だ。

なんとか、助けを呼びに行きたい物だが、

今あいつを護衛につけて行かせると、いよいよ守れなくなるしな。


そう思って、レンの方を見た俺は思わず叫んだ。


「レンッ、後ろだっ。」


やはり、前衛には慣れていなかったようで、

右方から来た二匹の対応に追われたレンの後ろにワーウルフが迫っていた。


レンは振り向き、顔が引きつる。


ワーウルフが跳びかかってきて……


ビシャッ


途中で悲鳴のような鳴き声をあげて墜落した。


「「えっ?」」


俺とレンは素っ頓狂な声を上げる。

そして、レンの前に一人の子供が飛び出し、

もう一人がその後ろで水鉄砲を構えるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


十ミニ程前


「いい、これらをつかう。」


僕は、みんなの前に必要な物を並べる。


水鉄砲

カサビ(例のワサビのような植物、名前はギームが知っていた)

いし

葉っぱ

木の枝

ミリアちゃんの魔導具


「このさくせんは、ミリアちゃんがいちばんじゅうようになる。」


そう前置きして、作戦を説明する。


基本方針は、唐辛子水鉄砲だ。

水鉄砲の水にカサビを溶かしてワーウルフの目に撃つ、それだけだ。

ここでビートから質問がくる。


「みずは?あのさわじゃあさすぎていれられないぞ。」


「そこはミリアちゃんにたのむ。」


「ミリアに?」


「みてもらったほうがはやいだろう。ミリアちゃん。」


ミリアちゃんに頼んで、魔導具を使ってもらう。

水鉄砲の中に水が入れられていき、

三人が目を丸くする。


「みずはこれでだいじょうぶ。つぎに、」


そう言って、石を使ってカサビをすり、葉っぱの上に移す。


「カサビをすって、しばらくおく。

できるだけながいじかんおいておきたいから、せつめいがおわったら、まずはみんなでこれをやるぞ。

で、」


僕はカサビを乗せた葉を水鉄砲に入れ、木の棒でかき混ぜた後、

ピストンを途中まで入れて、思いっきりシェイクした。


「こうやってカサビをとかす。ちょっとはなれてね、」


水鉄砲を構えて撃つ。


「あいてのめをこれでうつ。ここまでおわったら、はっぱをとりだして、

ミリアちゃんにまたみずをいれてもらうところからはじめてね。」


なにか質問は?と聞くと、

ビートが聞いてきた。


「ほんとうにこうかはあるのか?それと、すったあとしばらくおくのは?」


「よそうどおりなら、こうかはある。しばらくおくのは、そうすればこうかがたかまるはずから。」


カサビがワサビと同じ成分を含んでいるのならそのはずだ。


「そうか……。

まあ、ほかにさくせんもないしやってみるか。」


ビートがそう言ったことで、方針が固まる。


「じゃあ、まずはカサビをするぞ。」


僕たちは行動を開始するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る