第205話 絶望から希望へ、救いし者の試練はその先へ



 今は卵であるも医療の幼女神誕生から程なく、部隊の長期任務へ向けた再出発が迫る中。

 見違えた幼女神ピチカの活躍を見届けた霊装機セロ・フレームパイロット達は、各々思考へ決意を宿していた。


「ローナを失った事で心を無くしそうになったけど、ピチカちゃんを見てたらそうも言ってられなくなったわね。」


「そうっすね。あんなに頑張る子供に教えられるなんて……俺もほんとまだまだっす。」


「大丈夫よ。それが分かる時点で、いつき君も成長してる。語るも苦しい所だけれど……私の祖国日本でも、大口を叩くくせ未だにそれを学べない愚かな大人がごまんといる――」


「つくづく宇宙人そたびと社会に生きる同胞の高潔さには、頭が下がる思いよ? 」


 赤き霊機Αフレームを旗艦格納庫へと納めた炎陽の勇者赤き大尉綾奈は、機体を見上げながら言葉を交わし合う。


「火星圏の状況、どうなっているんでしょうね……クオンさん。災害防衛は確かに、ここで一つの山を越えた感がありますが。」


「ああ……。取り分け火星圏は、この太陽系でも数少ない宇宙災害コズミック・ハザード極小地域だからな。大気圏を持つとは言えあの地球でさえも、小惑星飛来以前に太陽風からの放射が常に渦巻き降り注ぐ、生命生存圏でももっとも過酷な世界。大気圏があるからこそ生命が生存できるんだが、それでも存続を脅かすのが大自然の摂理と言えるからな。」


「片や太陽系外縁へ向かえば、木星圏を初めそれより以遠のムーラ・カナ本国のある天王星宙域……太陽系宙域でも一番人類居住分布が高いあそこは、必然的にソシャールへの災害が頻発するは常だ。」


「……つまりは、――と言う事でもありますね。」


 一方の蒼き霊機Ωフレームの最終チェックと、コックピットに繋がったハンガー上で思案顔を浮かべる英雄少佐クオン双光の少女ジーナ

 長期任務でも最優先で動いた巨大通信ソシャールからの災害避難民救助を経て、これより訪れる先の戦禍を憂う会話に終始する。


 間違いなく彼らとて、妖艶な女医ローナの死で悲しみに狂いそうなのを心の底で押さえ込んでいる。

 が――その女医の魂を継ぐ新たな命が、前を見据えた双眸を目撃するや……伏していてははダメだとそれぞれが宿す意志で立ち上がったのだ。


 それは救急救命の任を請け負う者達が、避けて通れぬ茨の道。

 であるが故に、それを越えていかねば数多の力無き命を救い上げる事など夢物語なのだ。


『クオン! ちょっと後で、シグムント=ヒュレイカの追加兵装で聞きたい事が――って、ジーナちゃんも一緒なの? うわ……邪魔しちゃったわ。。』


「ちょっと!? こんな時に、そういうのはいいんですよアシュリーさん! 追加兵装の件はしっかり詰めて下さい。今後何があるか分からないんですから。」


『あらぁ~~? ジーナちゃんが一皮剥けた感じだわ~~? 』


『そうね~~。こっちも、うかうかしてらんないわね~~。』


「どさくさですよ、カノエさんにエリュトロンさん!? いいから、! 」


『『『お貸しします~~ぅ?? 』』』


「もーーーうっ!? 」


 蒼の二人へ水を差した形の男の娘大尉アシュリーと同じく女性を目指す者達。

 携帯端末越しで弄られる双光の少女も、地上は欧州系である真っ白な肌を真っ赤に沸騰させプンプン怒り顔を炸裂させた。


 それを一瞥した英雄少佐も、彼女達の粋な配慮に感謝を視線で贈る。

 部隊の中核である自分達が塞ぎこんでいる場合ではないと……彼女らが弄る方向で前へと視線を向けさせてくれたのだから。


 そんな、頭上斜め上で捲き起こる珍劇を見上げるは赤き大尉。

 が――彼女はいささか違う点での憂いを脳裏へ渦巻かせていた。


「(ローナを失う結果の中、やっぱり私はまだ何も出来ていない。何か出来たからと言って、彼女を救えたとは思えない……思うべきではないわね。けど――)」


 大尉が思考へ浮かべるは、霊装機セロフレームパイロットとしてかつて抱いた願い。

 人類の生んだ奇跡の技術を己が操ると言う壮大な夢。

 それが知らずの内に顔へと刻まれていたのだ。



 そして――

 長くあったパートナーの憂いに、……その横顔をしかと見定めていたのだ。



》》》》



 部隊が遭遇した宇宙災害コズミック・ハザードからの救急救命任務。

 そこで失われた尊き仲間の犠牲を乗り越えて――

 俺達は再び火星圏までの道のりを行かねばならない。


 格納庫で霊装機セロ・フレーム乗り皆で機体整備と調整を追えた後、クオンさんからの一時休息の指示が飛んでいた。


 戦いでの疲れ以前に、仲間喪失から来る精神的な疲労を考慮してのものだったけど……正直避難民看護に従事するピチカちゃんに救われたのは大きかった。


 そんな中俺は休息と言う事にしてある件の相談と……内密に相談それを持ち掛けた方々の元へと足を向ける。

 彼らは今俺達と同じく休息とし、艦内トレーニング施設へとつどって貰っている所。


「キャリバーンの艦内は広いといつも思うけど、ローナさんが居なくなってからは嫌に広さが増した気がするな。」


 独りごちる俺は、脳裏に刻まれて止まない彼女の葬儀の光景にうつむきそうになる。

 けど――ピチカちゃんの姿がそれを振り払う様に明滅していた。


 そのお陰で、自身が敗北を帰した時なんて比べ物にもならない程の絶望感を、今後の教訓として刻めそうな気がしている。


 と、思考する中トレーニング施設が視界に入るや……俺が着くまでウエイトトレーニングやランニングマシーンで汗を流していた面々が、中断して滴るそれを拭きつつ集って来る。


「少尉、改まって我らに相談とは? 時間は充分猶予を持たせてあるが。」


「ああ、少尉? これでも隊長、結構入念にスケジュール調整してたんでそこんトコは考慮頼んますぜ? 」


「パボロ……(汗)。隊長から? 後で揉まれても知らんからな? 」


 俺が相談したいと参集願ったのは他でもない、Ωオメガフォースたるバンハーロー大尉達と――


「バカいつき。しょうもない案件だったら承知しないわよ。分かってる? 」


「うわ……こっちはクリフ大尉どころの騒ぎじゃないぐらいに、スケジュール完璧に設定してたのに(汗)。」


「あら~~そうね~~。、隊長からお聞かせ願いたい所だわ~~? 」


「ちょぉっ!? 何全部ばらしちゃってるの!? あ、ああ……後で覚えときなさいよ!?エリュにカノエっ! 」


「えっ? アシュリーさん、おめかしなんかしてるんですか? ……ぶごふぅっ!!? 」


 Αアルファフォースのアシュリーさん達だ。

 とか思ってたら、何故かアシュリーさんのハードブローがわき腹を襲い、まさかの

 何故?


 そんな理不尽な一撃で床に伏してしまったけれど、彼らに参集願った件は重要事でもあるため……ちょっとまじめな顔で怒りをアシュリーさんに贈呈する。

 まあ流石に、それを見てまで理不尽な暴力を振るう彼女でもないので、ちょっと赤くなってそっぽを向いたこの人から視線を皆へと移し立ち上がった。


 そして――

 俺が皆へと協力を要請する、案件概要の説明に入る事とした。


「皆さんに協力をたまわる件ってのは、俺と綾奈あやなさんが乗るΑアルファフレーム――それをって相談っす。」


「本当の意味で? 」


「それ、どういう相談? 」


 発言内容に眉を寄せ、意味を測り兼ねるクリフ大尉に対して、アシュリーさんは直感でそれを感じたのだろう……ぐぃっと興味ありげに覗き込んで来る。

 うわ……こう言う時だってのに、この人めちゃ可愛いな(汗)。

 一瞬心臓が飛び出そうになった。

 何かおめかしして一層それが協調された感がある。


 これで男の人なんだから、素直に素敵だと思うけど――今はそんな事を思考している時じゃなくて。


「現在Ωオメガフレームを運用しているのはクオンさんと……支援機って形だけど、ジーナさんっす。つまりは、今Ωそれを統制するのは二人のパイロットと言う事――」


「俺はその運用形態をΑアルファへ……即ち、調考えてるっす。」


 続けた俺の言葉でクリフ大尉達は合点の言った顔。

 アシュリーさん達に至っては、その言葉が待ち侘びた天啓かとも思える程に輝く顔を見合わせている。


 少なくとも彼女達にとっての綾奈あやなさんは――女性や男性に始まり少数性に加え、身障者に至るまでの壁をブチ壊す、差別と迫害に曝される弱者の救世主的存在。

 その救世主たる女神が霊装機セロフレームのメインパイロットを張る現実は、待ち望んだ奇跡と知っている。


 視線を合わせ首肯した三人から真っ直ぐこちらへ向き直り、真剣そのものとなったアシュリーさんが――


「いいわ。その話、詳しく聞かせなさい。そのあなたの覚悟とお姉様への配慮を汲んで、喜んで協力させてもらうから。」



 おめかししてすでに美人だったお顔偏差値を、爆上げする様なとびっきりの凛々しい女の子顔で進言してくれるのであった。

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