第185話 宇宙特殊自衛小隊
先の宙域からニベルまでの距離は軽く数天文単位に位置するが、すでに艦の一部制限を解除したキャリバーンの速度であれば瞬く間に到着を見るは明白。
さらには、太陽系公転に於ける位置を踏まえた最短ルートを進んでいる事も大きい。
太陽系内縁へ向かうのとは
そんな中で——
訪れる事態の緊急性を鑑み、警戒を第三種……危機的状況ではないがすぐに動ける最低限の生活を行う現在。
オレはシャーロット中尉の意見を受諾し、新たなる救急救命部隊創設へ向けた話し合いにと旗艦ブリッジ傍の小会議室へと足を運ぶ。
「いつぞや依頼ですな、サイガ少佐殿。ふぅ……なかなかにこれは違和感がある。」
「それは皆からも言われます。ですが今のオレからすれば、工藤大尉は常に先達である旨はお忘れ無き様。」
「くくっ……。少佐昇格で、皮肉る口も上達していて何よりだ。では上官殿、先を急ぎましょう。」
そのオレに同行するは、此度の部隊創設の最終的な指揮を任される
肝心の女神達を今は訓練に専念させたいと、自ら同行を志願しての現在。
どの道彼に部隊を任せる手前、無駄が一つ省けたのでよしとしていた。
「
「ああ、待っていたぞ? 」
小会議室で待ち侘びる
事前に今回の重要点を通達した上での話し合い……期待はあれど憂いも含む双眸で迎えられた。
「早速だがクオン。私も聞き及んではいるのだが、かの地球は日本が抱える国家自衛機構……その簡単な概要に目を通した限りではこちらも近しい部隊創設に異論は無い。が——」
「はい……指令の思う通り、時期尚早とは俺も思います。ですが此度のセイバー・ハンズ所属 クリシャ・ウォーロック少尉の過ぎたる正義感を抑えるためには、今後を踏まえた上でも頃合いと——オレは見ています。」
憂う指令へ言葉を放つオレは、先の幾つかの成功と失敗事例を思い浮かべながら語って行く。
オレが少佐の地位を頂く以前。
何はともあれ見事に
ユミークル・ファゾアットと改められた彼女に関する件だ。
そもそもオレは当時軍事上の決定権を有していなかった訳だが、そんな事を言い訳にしても失敗の理由にはならない
けれど今ならば、オレの経験則から得られる不測の事態を
ウォーロック少尉の件は、俺としても後々へ多大に影響する事態と察していたから。
すると、渋る指令へオレと意見を同調させる猛将が一歩を踏み出す。
それは正に、己が信を置く家族の未来を案じる部隊長の願いそのものだった。
「
「今後訪れるであろう未曾有の事態を迎えるに当たり……その転換時期を見誤れば、救急救命の任どころか多くの人命を失ってしまう——そんな予感がしてならないのです。」
猛将が眉根を歪めて訴える。
これ程の男が頭を擦り付ける勢いなのは、彼が口にした通りの事態がすでに牙を剥き始めているに他ならない。
言うに及ばずそんな事は百も承知の
眼前の猛将の切なる懇願に負けた様に嘆息を零した。
「今の今まで救急救命部隊を指揮し、命の最後の砦を死守して来たのは工藤大尉だ。その大尉の訴え……無下になど出来るはずもないだろう。」
溢れた言葉に、オレは工藤大尉と顔を見合わせ安堵した。
また一歩……部隊の新たなる救いの力が底上げされる手筈が整ったから。
善は急げと本題の創設予定部隊概要へと移るオレ達。
そこで肝となるあのウォーロック少尉が搭乗すべき機体搭載兵装の件を踏まえた上で——
》》》》
そんな中、
彼らの足で向かったのは
さらには——
「あの、サイガ少佐殿。私めにお話とは斯様な用件でしょうか。」
さらに二人に着いてそこへ現れたのは
姉より彼らに着いて行けとの指示が飛ぶや、怪訝な面持ちでそこに立つ。
彼女の思考では、すでに己が仕出かした件への対処が保留である事実が過ぎり……それこそ重い重罰を科される覚悟を宿す。
己が心に刻み貫く義が、真っ向から否定されるその重罰を。
「ああ、欠かさぬ訓練最中に済まないと思うが……ウォーロック少尉を呼んだのは今を置いて他にないとの判断。それは工藤大尉も了承済みだ。」
「は、はぁ……。」
しかし——
英雄から重罰を科すには方向違いな会話が振られる事となり、困惑の中間の抜けた返答を返してしまう
その少尉の反応さえ予想していた英雄少佐と救いの猛将。
揃って首肯するや、視線を大格納庫の奥へと向ける。
そこには事前にあらかたの連絡の元、
「クオンよ……あー、この呼び方は流石にマズイな。少佐殿、準備は出来てるぜぃ!? 」
「是非とも、いつも通りで願いたい所なんだけどな(汗)。それは兎も角……頼めるか?チーフ。」
すでに英雄への、慣れぬ少佐殿呼び弄りが定番と化したチーフが首肯。
その手に握るロープを居合わせた整備員数名と合わせて引くや、大掛かりな幕が払われた。
そこに並べ立てられていたのは——
「しょ……少佐殿!? これは一体何の冗談ですか!? 」
女神の妹少尉は動揺を隠せない。
大掛かりな幕の下より現れたのは、一式の対抗争用武装数機分。
間にあわせ感が拭えぬそれは、あり合わせで構成した即興の小型機動兵装殲滅兵装だったから。
すでにあらぬ事態で思考が飛びかける妹少尉へ、英雄少佐は宣言する。
間にあわせた武装が意味するその概要を。
「今は議長閣下たっての重要な任遂行の最中。ゆえにすぐ準備できるのはこれが限界だ。けれど今後の事態はもはや。こちらの準備不足を待ってはくれないのが実情。そこで——」
「これよりこのクオン・サイガの一存により、クリシャ・ウォーロック少尉へ命ずる。この軍部より正式に配給される、対抗争殲滅兵装を装備したセイバー・レスキュリオを正しく扱い……新たなる実験部隊に準じたデータ収集を行う事。」
「……実験、部隊? その様な物が。しかし少佐殿! 私は救命救命の任を
少女は想定もしない勅命に動揺を隠せない。
だがしかし……英雄から放たれた言葉によって、心の底に眠る義の魂が燃え上がる。
武装を纏いて救急救命の機体を駆れと言う言葉は即ち……非常事態の際には武装使用を許可すると明言されたと同義であるから。
その武装持ちて……窮地に立たされた姉率いる救命隊の危機を救う許可を得た様なものであったから。
英雄少佐も、眼前の少女に眠る義の心に炎が灯ったのを見逃さなかった。
だからこそ最後へ、今の彼女に必要不可欠な言葉と任務に際する訓練仮定を付け加えた。
「勘違いはするな、少尉。これは君の姉であるシャーロット中尉からのたっての願い。そこで君にはこれより救急救命訓練に加え、当クロノセイバーが擁する対抗争戦を得意としたエリートらの指導の元……実戦形式での訓練を追加する。」
「君は命を救うが本職であるが、向かう戦地でその本職が己や仲間の命を救えぬでは本末転倒。ゆえにこれから組織する新たな部隊〈宇宙特殊自衛小隊〉は、戦場で己や仲間を生き残らせるための組織と心せよ。」
姉からのたっての願い——
語られた言葉は妹少尉の胸を
同時にそれは英雄少佐が危惧して止まない、彼女が正義の道を誤った結果生む悲劇……その回避に一役買う事となる。
何の事は無い。
注釈に加えられた「姉から」と言う一言で、己が如何に救いの部隊で増長していたかを悟ってしまった少女がその身で示している。
己の命を救い上げた親愛なる姉の……
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