第37話 工藤大尉 暁艦隊を駆る者
「そこで何をしている!」
緩やかな日常の様な、自業自得の果て――情けない罰をこなす少年は、以外にもまじめに作業へ没頭するあまり、まだ知らぬ区画へ迷い込んでいた。
流石に不審に思ったその場所を管理する男から、声を掛けられてしまう。
「あっ、すんません!俺今、【
慌てて言い訳と共に、惨めな状況を暴露する少年――その言葉にある【
「貴君はどうやったら【
通常この暁艦隊旗艦となる〈
【
その上で――隊員への定期的な息抜きや訓練をこなす際、【
巨大な剣を模す艦はその余りある広さ故、部隊訓練時は小さな駆逐艦級の艦内よりも遥かに適していた。
しかし何れも無断で経路を通る事は出来ないはず――まさに、少年が迷い込む理由を問い
ともあれこちら側の許可無し外出容疑者は何が科せられるか重々承知しているが、あちら側からの訪問者なら規則を知らぬ者もまだ多い。
暁艦隊側のルールを伝える旨を含め〈
「――まあいい。貴君はあの赤き【
「若造――事情は汲むが、これは本来【
少年はその名と、ルールと言う単語を耳にし「やっちまった!?」と表情が目を見開いたまま硬直しそうになる。
しかしその艦隊指令の寛大な処置を甘んじて受けよう――いや、受けざるを得ないまま
****
「今回はこちらが若造の罰を上手く利用させてもらった――つまりは若造へ、ついでに〈
「異存は無いな若造?」
俺はやっちまって以降、暁艦隊指令こと工藤大尉に連行され【
連行されているのだが、大尉の指示があればそこかしこを清掃している――うん、大掃除の点ではなんの間違いもないな……(汗)
つい先程貴君から若造へ格下げとなった俺は、そう呼ばれても自粛するしかない踏んだり蹴ったりな
しかし艦内の掃除を受け持つと言う意味では、ある意味非常に
あの〈鬼美化のナスティさん〉が、【
【
薄い蒼を基調とした、清潔な機械壁にはあまり違いは見当たらないが――やはり通路だけでも3分の1ぐらい細ければ、かなり小さな艦に感じる。
だが逆を言えば、迅速な任務に対応するためのスピードに関しては俺の感覚で見ても、非常に有利に働くと直感する。
そこはやっぱり、救急救命艦の名は伊達じゃないなと感嘆した。
「時に若造……お前は最初の【
唐突に立ち止まる大尉――そして質問までも唐突であったので、一瞬考えてしまったが――大尉の声調が、俺の真意を測ろうとしているのに気が付き――
「俺は……あの機体に乗って、自分がどれだけ世界を知らないかを思い知りました。けど――」
「……けれど俺に、あの英雄が教えてくれたんです。言葉じゃない……自らの行動で。だから俺は――あの人が認めてくれた、自分の価値を試したいんです!」
暁艦隊の総司令を名乗る男へ、思わず熱が
その言葉を聞き、
「若造――お前は良い負け方をしたな。」
〈良い負け方〉――勝利出来なかった事を蔑むでなく、敗北した点を褒められる。
俺は今までそんな褒められ方をした事は一度も無い。
だからこそ理解した――この大尉も、あの蒼き英雄に負けず劣らず英雄であると。
勝利とは競技においては常に目指すもの――俺はその中で敗北する事なんてなかった。
だから勝利の賛美は当然と、自分の才能に酔いしれていた。
けど――
そこでの敗北は死と直結する。
任務の上死した事を賛美されても、そこに喜びなんて存在しない。
だが俺は――最初の闘いで生きたまま敗北を喫した。
大尉はそれを踏まえ――それでいて俺が決して諦めず、自らを一から鍛え直すために立ち上がった事を褒めてくれた。
自分を見つめ直した事を――そして諦めずに立ち上がった事を賞賛してくれたのだ。
その思考に達した俺は、このもう一人の英雄へ心からの謝辞を込め頭を大きく下げていた。
「あ……ありがとうございます!」
勢いよく頭を
俺もそのまま贈られた賛美に答える様、本来の作業ではない〈
それ以降の清掃作業――罰でやらされていたはずの作業が、知らず知らずに熱の入る真剣作業へ変わっていた。
程なく大尉が立ち止まる通路脇の大扉。
狭い通路の天井ぎりぎり――通路壁に設けられた重厚な二重扉が、脇に設置された認証パネルで暗号入力後重々しく開かれた。
そこは駆逐艦級とは言え、そこでもっとも重要となる場所――救急救命の勇者達が常に出撃待機する格納庫。
「かの【
「ちなみにこれは機密でもなんでもない。民間情報として一般公開される事例ゆえ、気を張る必要はないぞ?」
暁の指令はそう述べた――けど、それを目の当たりにして俺は違うベクトルの気を張り詰めた。
確かに一般公開された情報通りの機体が格納されている。
サイズ的にも【
「これ……!見た事あります、あの【アル・カンデ】AGN放送の生中継でも活躍してた機体!」
そこにあったのは、【アル・カンデ】でも数少ない広域通信放送――その中でニュースを中心とした番組を放映する
頻繁に巻き起こる
「世間にとっては、歯牙無い裏の黒子に過ぎない。だが――」
「これは、我ら【
あらゆる災害場所――時には戦場でさえ、国際救助の旗を掲げて
機体背部には救急救命専用設備を数多く内包する、独立式自動航行多目的コンテナ――確かこれで、要救助者数名を搬送出来るはずだ。
民間救助機体――特殊次世代フレーム=
そしてその機体を見上げたまま、大尉は俺へ言葉を投げた。
俺――というよりは、赤き【霊装機】のパイロットに、だ。
「【
「公開情報で知りえているだろう――この機体には、命を救うための設備が満載されている。」
言葉を区切る大尉。
俺はその
だがこれは命を救う機体であり、命を奪う機体では断じて――無い。
即ちそれは、万が一戦場にこの機体で飛び出た際――国際救助の旗を掲げようと、極めて危険な状況に置かれると言う事だ。
民間機体の扱いである、赤き【
その含みが意味する言葉を理解した俺は、恐らく今の自分へ告げられるであろう大尉の宣言を真摯なる眼差しで待つ。
そして振り向いた暁艦隊指令――その目には、先程俺を若造とあえて呼んでいた時とは違う切実さが込められていた。
「
「その時はどうか、我が暁の精鋭達を……その護衛をしかと頼みたい。」
俺を貴君と呼び直した、上官に相当する階級の男が――懇願と共に頭を
彼らにとっては【
それを差し引いても俺は新参も新参――初搭乗の際には、敵対者一人にすがるがやっとの半端者。
その俺に、願い――頭を
俺は真摯たるその想いへ思考する事無く返答していた。
「……任せて下さい。俺が――【
真摯な猛将の懇願に、腑抜けた回答など出きるはずなんてない。
また一つ――俺は【
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