第36話 見舞うお約束 少年の受難
順調な航海(
そんな中
もしかしてこの航海中ずっとあれが続くのか?と思うと、楽しみの中に不安もある訳で、一夜明けた早朝時間――05:00に不安払拭の生身のトレーニングを、と励んでいた俺。
だがしかし……今何故か掃除用の柄が付くクリーナー片手に、通路をはや幾往復。
――どうしてこうなった……(汗)
【
二人~四人のグループをそれぞれ選べ、時には入れ替えも自由な仲間と一体となる生活空間。
しかし水周りに関しては、限られた水資源の再利用を考慮し――大多数が共同で使用する事が基本的なルールだった。
――まあ、導き出される結論からしてシャワー室等が共同生活のある意味キモとなる訳だが――そこにこの艦の、無駄に行き届いた配慮を目撃してしまった。
なんと、シャワー室に隣接するお風呂が銭湯の様な
地上は日本国民に近い者が比較的多い【
「ほんとここは日本人向けに
シャワーだけでは勿体無いから、ついでに銭湯を堪能しようとした俺――疲れの中緩みきった思考が、ある致命的なミスを犯した事すら気付かなかった。
【
そこは娯楽設備も集約され、銭湯もその一つに組み込まれた一設備だ。
基本は男女と性同一の人が利用する三箇所(性同一者の施設は、周りへの配慮が難しいので分けられるのは致し方なし)が、シャワー設備や公衆トイレで分割し設けられる。
生活に欠かせない箇所ゆえ、優先的に調べたけど間違ってはいないはずだ。
シャワー設備に関しては銭湯が隣接するため両設備は一体の扱いだが、その銭湯は地上の日本の例に違わず清掃などの都合により、その男女及び性同一者の利用時間が定期的に入れ替わると言うデンジャラスなルールが存在する。
その銭湯は日頃からある清掃クルーの手によって清潔を保たれると聞いたのだが、それはまだ二十代後半の艦内美化も担当する女性――
「ああ、
つい銭湯堪能への道すがら、俺の行動を察して声を張り上げる彼女に出会っていた。
少し茶色がかった肩甲骨にかかるストレートの髪を後で
だが作業を行う彼女は生き生きとしており、その掃除を受けた設備は今入荷しましたよと言われても不思議ではない程、清潔にされる。
「お疲れ様っす。きょうもお仕事お疲れさんです、ナスティ伍長。」
「いえいえ、私はこれ――天職なんです!ではっ、次の掃除があるのでっ!」
傍目からみれば他愛の無い作業――だがこの【
何よりこの船は、一部が巨大な医療施設を成す――暁型第六兵装艦隊と呼ばれる部隊の船で、〈
そこは他の艦艇からも厳重に隔離され、ウイルスや病原菌の感染を防ぐ特殊フィールドで覆われる。
まさにその医療施設を内包するこの艦において、清潔さは命である。
その艦全体の清掃員として彼女の他にも清掃クルーが存在するが、ナスティ伍長は別格らしい。
そして、その〈
本人は至ってまじめに清掃をこなし、全てが完璧作業で終わるのに――ホントに何故か、そこだけミスると言う
そして俺――なんとその噂を耳にしていたにも関わらず、男女が分けられたプレートの確認を怠ったまま――その先に銭湯が待ち受けるT字通路を抜け、中がぼやけて見え難いザ・お風呂場な扉を開け放ってしまったのだ!
「あっ……。」
停止した思考――自分は男湯に入室したつもりだ。
だからそこに彼女がいる事の方がおかしいと言う、自分勝手な思考を巡らせる。
だが――その後まるで走馬灯の様に、ナスティ伍長の噂が脳内のシナプスに乗って量子コンピューターの計算速度をも越えるスピードで、一つの理解を思考へ発光ダイオードのキラン!と言う音と共にたたき出した。
や……やっちまった……。
プレート――確認してないよね……。
なら――いてもおかしくはないよね。
皮肉にも同じ格闘家であり、早朝の鍛錬と言う分かりやすい近似点が見抜けなかった、まさに俺の落ち度。
男湯のプレートがかかったままの女湯と言う場所で、タオル一枚――着替える寸前の
「……。」
ああ、凄いね――流石は
こんなハプニングにも眉一つ動かさない――これはかなりマズイ状況だ。
目が座るとかそういうレベルではないね――これ、殺しに来てるね……。
そして
しかしその肢体が
その疾風のまま華麗に脚を中心とした円を描き、はだけそうなタオルを巻いたまま――
視界にそれを捉えた俺は、今度こそ本当の走馬灯が見えた――気がした。
うん――マズイ、マズイですこれは。
なんかこの前も、化粧が崩れて大変になってる事をデリカシーと言う言葉を忘れて失言し――食らったあれが……来る!
ひゅっっ!!
「ごぶっっ!?」
俺の喉から、潰れたヒキガエルの様な声が出た。
宙を舞ったと思ったそのおみ足が、そのまま疾風の如き勢いでその足の横で打つ――いわゆる
が、自分の訓練の成果に感謝だ。
急所を反射的に、寸ででかわす事に成功する――だが、この一撃は重い。
勢いのまま俺は入って来た入り口T字路――その壁まで蹴り飛ばされた。
つーか
と、抗議しようにも自分に非があるゆえ――なかなか甚大なダメージの腹を押さえながら、無言の真っ青な顔で赤き機体のパートナー女性を見上げた。
「何してるの?」
そこには羅刹が居た――否、修羅か悪鬼か。
もうどれでもある女性が見下ろしている。
ああ、俺様よ――なんで男湯かどうかぐらい確認出来ないかな。
そして薄れ行く意識の中で、俺はさらなる悲劇と遭遇する。
そう――こういった不幸は、同じ星の元に生まれた様な人物がさらに酷い事態へ巻き込まれると言う、
俺の耳に届いた声――うわぁ、このタイミングで整備チーフ登場だ。
「か……か、ぐら……たい……!?」
マケディさん――ここでまさか、あんたも朝風呂か?
入り口のT字路でうずくまる俺を不審に思いながら、そのまま男湯のプレートが掛けられた地獄へと脚を踏み入れていた。
おっさん……そんな飛んで火に入る何とやらな感じで、こんな悲劇に突入しなくても。
あれ?
まさか流石にこのおじさんに見られたのが恥ずかしかったか?
――などと薄れた意識が、目蓋を下ろしそうになる視界には、何やら無言で更衣室奥へ戻っていくタオル姿の羅刹。
そして肝心の整備チーフは――凍り付いていらっしゃる……。
これはあれだね、蛇に睨まれたね。
きっと「そこを動くな。」と脳内へ叩き込まれたパターンだね。
すると案の定――どこにしまってたのか、ビキニの水着を即着したビキニ羅刹が戻って来たよ。
その水着姿で羅刹の表情はいかんでしょ……と思考する俺の眼前で、整備チーフ――宙を舞った。
手が握られた瞬間、
つかそもそも、理知の働く羅刹って恐ろしい事この上ないんですけど?
「いだだだだだだだだっっ!?」
俺の薄れ行く思考は、かすかに耳に届く整備チーフの悲痛の絶叫を最後に途切れてしまう。
その後、まさかのその場に放置されると言う事態は、偶然通りかかった――といってもそもそも近くに医療室があるのだから、居て然るべきの少女により発見に至る。
「シシテ屍拾う物ナシなのだ?ヘンジがない屍サン――よーきゅーじょしゃなのだ!」
謎の片言日本語を語りながら、どこかのギャグ世界のメガネなロボ少女よろしく――犬のフン的にツンツンされた俺は、小さな女医候補のおかげで医務室のベット上で目覚める事が出来た。
そしてその後、部隊制服へと着替えたデフォルト羅刹からみっちりお仕置きされた俺は、艦のメイン通路で柄の付いたクリーナー片手に端から端まで、ナスティ伍長のお手伝いの刑を科せられていた。
そして今に至るのだが――戻らぬ調子にゲンナリしながら掃除していたら、参った事になってしまった。
まだこの艦、知らない場所が多いんだけど――迷った……ここ何処だ?
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