決意の蒼雷再び
第9話 その蒼が落ちた日
『時間切れだ……!』
「隊長……!?ちょ……ちょっと……!」
砲撃を主体とした
さっぱりとした赤みがかったショートヘアーに、やや吊り上がった目元。
体躯は
それでいて、軟弱な男なら打ちのめされるぐらい勝気な性格。
――彼女も成り行きではあるが、この隊で共にやってきた格闘バカとも言える同僚とは、それなりの付き合いがあった。
腐れ縁の仲で、その同僚が格闘技に何を求めているかは何となく理解している。
ただ同僚の行き過ぎを
それでも、同僚の男――アーガスの戦いはそれなりに意味があるのを知っている
「隊長が許可したのよ……!?……後少しぐらい戦わせても……」
そんな同僚を、意外にも思いやる隊員すら手の上で躍らせる隊長ヒュビネット。
作戦実行中に余計な私情を挟むなとの意を込め――
「なあユーテリス……。オレ達にそんな時間はあったか……?」
『そ……それは……。』
状況が
そこには、単純に作戦にかけられる時間の制限がある事を、砲撃隊員も理解している。
ソシャール【アル・カンデ】は、木星の巨大衛星エウロパ軌道上に存在するが、主星の巨大な重力と、各衛星との重力が
作戦に使用される、
「分かっているならそれでいい……。」
そのため作戦遂行タイミングは、主星である木星と4つの巨大衛星間重力が
――しかし、隊長ヒュビネットは一筋縄ではいかない男であり、当然時間のあるなし以外の別の意図が絡んでいるのは言うまでもなかった。
「奴らに時間を与えるな……。与えれば奴らとて策はある……。」
隊長機の通信を境に、
》》》》
近隣住民が噂する例の男が居住するソシャール第3区画。
おおよその住民が、不安がって近付かないこのマンションへ、一台の普通型バイクが乗りつけた。
その体躯はまだ未成人姿の少女。
ライダースーツに包まれる体は、スレンダーではあるがまだまだ未発達で、肩口で
地球――地上の人種で区別するならヨーロッパ系のブロンド少女という所である。
決して軽くはない足取り――それでも行かなければという、切実さが表情に浮かぶ少女。
向かう先は――このマンションを貸切状態にするあの男の下である。
マンション二階にある階段より三番目――そこは外界から
多くの
遠い眼と無気力な表情――時の止まった毎日を繰り返していた。
手入れすれば二枚目の顔も、精気の抜けた顔では引き
いつもの様に、何の変化も無く過ぎ去るかに思えた男の日々――そこにささやかな変化がやって来る。
何度も鳴り響く、来客用のブザー ――さしもの男も
「何回も何回もうるさいな……。いったい誰……また、あんたか……。」
苦情を浴びせてやろう――そう意気込んで開けた扉、そこに立っていたのは慣れたくもないが、
「すいません……。伝言では
まさか訪問して来るとは――居留守を決め込んでも状況が状況、自分がこの部屋にいる事は相手も先刻承知。
訪ねて来る事を予想して、姿を消せなかった自分を恨みながらしぶしぶ対応する男。
「……念のために聞くよ……何の用だ……!」
不機嫌さがじわりと込み上げる――抑えてはいても、すでに顔に出ているだろうと思いながら、髪をかき上げて何とか理性を保とうとする。
その表情――少女も予想はしていたが、状況はかなり険悪なムード。
それでもそこに足を運んだ事は、意味ある物と言い聞かせ大尉と呼んだクオン・サイガへ、もう何度目か分からぬ交渉を持ちかける。
「お願いです――クオン・サイガ大尉!」
きっとここで断られたなら、希望は
「もう一度……、C・T・Oへ戻って来て下さいっ!」
「断る……!」
「何度来ようが変わらない……。……分かったらさっさと――」
それでも
「私……聞きました……!」
「8年前――作戦中、大きな事故に……!」
話はこれまでと部屋へ
「それが原因で
必死の少女――自分もその男を理解しようとしている――そう伝えるつもりだった。
「……未熟な私じゃ、大した事は言えないけど……それぐらいの事――【
けれどもその交渉に含まれた言葉――それが彼女の預かり知らぬ、大尉の触れてはならぬ逆鱗を
同時に触れられたくない過去への攻撃へ、激昂した大尉と呼ばれた男――発した怒りのままの拳を、何言わぬ側壁へ叩きつけてしまう。
「あの時の事――何も知らない奴がっ!勝手な言葉並べるなよっっ!!」
「……っ!!」
噴出する――抑制を越えた怒りのまま、壁に拳を叩きつけるクオン。
予想外の
「……そんな……、私は……ただ……。」
口にしながら少女は思う――自分は彼の知らぬ過去に傷を付けたかも知れない。
それは
「……言い過ぎたよ……。だけど……悪いがもう……オレに関わらないでくれ……!」
彼もまた、自分の不甲斐無さに言いようの無い嫌悪が
「……、分かりました……。もう……ここには来ません……。」
自分の知らぬ彼の過去――
それを傷付けた自分のミス――
少女の脳裏には、すでに交渉に使える言葉が見当たらない。
失意のままクオン・サイガの部屋に背を向ける。
「……ああ、そうしてくれ……。その方がこちらも――」
言ってしまった手前――クオンも後に戻れない。
でもそれでいい、またいつもの無気力な世界へ戻るだけ――
衝撃と振動――このソシャール【アル・カンデ】内部、確かに響いた轟音に大尉と言われた男もうろたえる。
「な……なんだ、
万一、外壁が破壊された場合の災害防衛第2フェーズとして、破壊された箇所より内部のブロックを隔壁により遮断――破損ブロックの誘爆等被害回避のため、それらをパージするシステムを取る。
その事からも、突然内部から衝撃――または爆発音が響く事態はありえない。
そのありえない事態が、いよいよ大尉の無気力な日常を壊しに掛かる。
マンション通路――申し合わせたかの様な位置、そこから視認可能な遥か1km以上先の工場区画。
事態を確認しようとした、引き
「……ウソ……だろ!?……なんで……Aフレーム……が!?」
止まった時が少しずつ流れ出す――
宇宙に住まう者にとっての
その日常と比べても、明らかな非常事態を大尉の本能が告げる。
「どういう事なんだ……!
大尉の部屋に背を向けたままの少女――すでに諦めの中、おもむろに語り出す。
――今まさに、訪れている危機の全貌を。
「……【ザガー・カルツ】……。ボンホース派が……【アル・カンデ】を……私達の故郷を攻撃……してきたんです。」
「そん……な!」
自分はただ引き
その敗者の望みを打ち砕く――訪れた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます