決意の蒼雷再び

第9話 その蒼が落ちた日



『時間切れだ……!』


「隊長……!?ちょ……ちょっと……!」


 砲撃を主体としたSV・Fシヴァ・フレームに搭乗するユーテリス。

 さっぱりとした赤みがかったショートヘアーに、やや吊り上がった目元。

 体躯は宇宙人そらびとの平均より、やや低めの身長を赤を基調としたパイロットスーツで包む。

 それでいて、軟弱な男なら打ちのめされるぐらい勝気な性格。


 ――彼女も成り行きではあるが、この隊で共にやってきた格闘バカとも言える同僚とは、それなりの付き合いがあった。


 腐れ縁の仲で、その同僚が格闘技に何を求めているかは何となく理解している。

 ただ同僚の行き過ぎをとがめる、損な役に回っているのは本人の不本意な所ではある様だが。


 それでも、同僚の男――アーガスの戦いはそれなりに意味があるのを知っているゆえ、いささか噛ませ犬的な扱いはしゃくさわる事もある。


「隊長が許可したのよ……!?……後少しぐらい戦わせても……」


 そんな同僚を、意外にも思いやる隊員すら手の上で躍らせる隊長ヒュビネット。

 作戦実行中に余計な私情を挟むなとの意を込め――


「なあユーテリス……。オレ達にそんな時間はあったか……?」


『そ……それは……。』


 状況がわずかに抜けかけていた砲撃主ユーテリスは、隊長の言葉に押し黙る。

 そこには、単純に作戦にかけられる時間の制限がある事を、砲撃隊員も理解している。


 ソシャール【アル・カンデ】は、木星の巨大衛星エウロパ軌道上に存在するが、主星の巨大な重力と、各衛星との重力がり合うタイミングでなければこの作戦が失敗所どころの騒ぎではなくなる。


 作戦に使用される、SV・Fシヴァ・フレーム及び別宙域で待機するフレーム搭載巡宙艦【バーゾベル】では、木星の重力を振り切る事が不可能であるためだ。


「分かっているならそれでいい……。」


 そのため作戦遂行タイミングは、主星である木星と4つの巨大衛星間重力がり合う時期に行う必要があった。


 ――しかし、隊長ヒュビネットは一筋縄ではいかない男であり、当然時間のあるなし以外の別の意図が絡んでいるのは言うまでもなかった。


「奴らに時間を与えるな……。与えれば奴らとて策はある……。」


 隊長機の通信を境に、アルファフレームへの部隊包囲攻撃が開始される。




》》》》



 

 近隣住民が噂する例の男が居住するソシャール第3区画。

 おおよその住民が、不安がって近付かないこのマンションへ、一台の普通型バイクが乗りつけた。


 その体躯はまだ未成人姿の少女。

 ライダースーツに包まれる体は、スレンダーではあるがまだまだ未発達で、肩口でそろえられた薄い金髪に青い眼が特徴的。

 地球――地上の人種で区別するならヨーロッパ系のブロンド少女という所である。


 決して軽くはない足取り――それでも行かなければという、切実さが表情に浮かぶ少女。


 向かう先は――このマンションを貸切状態にするあの男の下である。


 マンション二階にある階段より三番目――そこは外界から遮断しゃだんされた様な、別の時間が支配していた。

 多くの宇宙人そらびとが隣り合わせる災害、C・Hコズミック・ハザードと向き合いながら日々を乗り切る中、その一室に閉じこもる男。


 遠い眼と無気力な表情――時の止まった毎日を繰り返していた。

 手入れすれば二枚目の顔も、精気の抜けた顔では引きこもりのである。


 いつもの様に、何の変化も無く過ぎ去るかに思えた男の日々――そこにささやかな変化がやって来る。


 何度も鳴り響く、来客用のブザー ――さしもの男も苛立いらだちをつのらせながら、のそっとベッドから降り、無気力な日々を壊しに来た来客の顔をおがむ事にした。


「何回も何回もうるさいな……。いったい誰……また、あんたか……。」


 苦情を浴びせてやろう――そう意気込んで開けた扉、そこに立っていたのは慣れたくもないが、度重たびかさなる執拗しつような留守通信で顔馴染んでしまった少女だった。


「すいません……。伝言では度々たびたび……お邪魔しました。」


 まさか訪問して来るとは――居留守を決め込んでも状況が状況、自分がこの部屋にいる事は相手も先刻承知。

 訪ねて来る事を予想して、姿を消せなかった自分を恨みながらしぶしぶ対応する男。


「……念のために聞くよ……何の用だ……!」


 不機嫌さがじわりと込み上げる――抑えてはいても、すでに顔に出ているだろうと思いながら、髪をかき上げて何とか理性を保とうとする。


 その表情――少女も予想はしていたが、状況はかなり険悪なムード。

 それでもそこに足を運んだ事は、意味ある物と言い聞かせ大尉と呼んだクオン・サイガへ、もう何度目か分からぬ交渉を持ちかける。


「お願いです――クオン・サイガ大尉!」


 きっとここで断られたなら、希望はついえるだろうとの想いで――


「もう一度……、C・T・Oへ戻って来て下さいっ!」


「断る……!」


「何度来ようが変わらない……。……分かったらさっさと――」


 それでもひるまない――彼を自分が説得する事を、待ち望む人達がいるから。

 

「私……聞きました……!」


「8年前――作戦中、大きな事故に……!」


 話はこれまでと部屋へきびすを返した直後――という言葉に大尉の足が硬直する。


「それが原因でΩオメガフレームを降りたって……」


 必死の少女――自分もその男を理解しようとしている――そう伝えるつもりだった。


「……未熟な私じゃ、大した事は言えないけど……――【霊装機セロ・フレーム】乗りのサイガ大尉なら……きっと……」


 けれどもその交渉に含まれた言葉――それが彼女の預かり知らぬ、大尉の触れてはならぬ逆鱗をこすり上げてしまう。

 同時に触れられたくない過去への攻撃へ、激昂した大尉と呼ばれた男――発した怒りのままの拳を、何言わぬ側壁へ叩きつけてしまう。


「あの時の事――何も知らない奴がっ!勝手な言葉並べるなよっっ!!」


「……っ!!」


 噴出する――抑制を越えた怒りのまま、壁に拳を叩きつけるクオン。

 予想外の激昂げっこうを前に、少女は硬直し――消え入りそうな声で誤解への訂正を口にしようとする――が、


「……そんな……、私は……ただ……。」


 口にしながら少女は思う――自分は彼の知らぬ過去に傷を付けたかも知れない。

 それはすなわち、交渉を決裂させる己のミスであると。


「……言い過ぎたよ……。だけど……悪いがもう……オレに関わらないでくれ……!」


 激昂げっこうした大尉も大尉――押さえ切れぬ感情のまま、怒りを無関係な人間に放つ。

 彼もまた、自分の不甲斐無さに言いようの無い嫌悪がぎっていた。


「……、分かりました……。もう……ここには来ません……。」


 自分の知らぬ彼の過去――

 それを傷付けた自分のミス――

 少女の脳裏には、すでに交渉に使える言葉が見当たらない。


 失意のままクオン・サイガの部屋に背を向ける。


「……ああ、そうしてくれ……。その方がこちらも――」


 言ってしまった手前――クオンも後に戻れない。

 でもそれでいい、またいつもの無気力な世界へ戻るだけ――


 宇宙そらより落ちた【霊装機セロ・フレーム】乗りの男も、再び自室へ戻ろうとした時――それは遠方、仮初めの大地を伝わり訪れた。

 衝撃と振動――このソシャール【アル・カンデ】内部、確かに響いた轟音に大尉と言われた男もうろたえる。


「な……なんだ、C・Hコズミック・ハザード……!?だが、こんな所まで衝撃が来るなんて……」


 C・Hコズミック・ハザードに対して、このソシャール【アル・カンデ】は外壁を幾重いくえにも張り巡らし、外部に激突する流星群――あるいは隕石群の衝突を軽減する構造を持つ。

 万一、外壁が破壊された場合の災害防衛第2フェーズとして、破壊された箇所より内部のブロックを隔壁により遮断――破損ブロックの誘爆等被害回避のため、それらをパージするシステムを取る。


 その事からも、突然内部から衝撃――または爆発音が響く事態はありえない。

 そのありえない事態が、いよいよ大尉の無気力な日常を壊しに掛かる。


 マンション通路――申し合わせたかの様な位置、そこから視認可能な遥か1km以上先の工場区画。

 事態を確認しようとした、引きこもりの大尉の目に飛び込んだ物――ちゅうを舞う謎の機体と――赤き【霊装機セロ・フレーム】とおぼしき影。


「……ウソ……だろ!?……なんで……Aフレーム……が!?」


 止まった時が少しずつ流れ出す――

 宇宙に住まう者にとってのC・Hコズミック・ハザードは日常であり、共存すべき試練――

 その日常と比べても、明らかな非常事態を大尉の本能が告げる。


「どういう事なんだ……!C・Hコズミック・ハザードじゃ……」


 大尉の部屋に背を向けたままの少女――すでに諦めの中、おもむろに語り出す。

 ――今まさに、訪れている危機の全貌を。


「……【ザガー・カルツ】……。ボンホース派が……【アル・カンデ】を……私達の故郷を攻撃……してきたんです。」


「そん……な!」


 自分はただ引きこもって、無気力な時間を過ごしたい――宇宙そらという舞台から背を向けた男。

 その敗者の望みを打ち砕く――訪れた未曾有みぞうの危機に、かつて【霊装機セロ・フレーム】を操りし男は自らの選択を迫られる事となるのだった。

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