第10話
以上が、私が刑務所の食堂で
そこまで親しくないのに、向かいの席で食事をしている最中になぜかいきなりこんな話をされたから正直引いた。
見たことはないが、確かにこの人の部屋はゴミ屋敷状態だと聞いたことはあるが、これがその理由だとでもいうのだろうか?
変な人なのか、それとも単にからかわれているだけなのか、どっちみち早く会話を終わらせたかったのでさっさと食事を終えて別れの挨拶をしようとした。
が、間の悪いことに急にくしゃみが止まらなくなった。
「風邪?」
占野が心配そうに尋ねてきた。
「う… ハックシュ! そうなんでブワッシュ! 最近アチュッ! 風邪気味で… シュワッチ! ちょっと失礼し…ウブッ!」
洟をかむためにティッシュを取り出そうとズボンのポケットを探った、が、ない。部屋に置いてきてしまったようだった。
「使う?」
どこから取り出したのか、占野がボックスティッシュをこちらに差し出してくれた。意外といい奴なのかもしれない。
「ありがとうゴザマッシュ! じゃあ1枚だけ…」
伸ばしかけた手を、しかし私は止めた。
強い罪悪感を覚えたからだ。
このティッシュを使うことは、たとえるなら図書館で借りた本の全てのページを読めないくらいにビリビリに破いたり、人から預かった金を全て自分のために使い切ってしまうのと同義であるような、そんな気がした。
私のように色々な悪事をやらかして刑務所にぶち込まれた奴にだって、悪いことをしたくないと思うことくらいあるさ。
だから断った。
「ごめんなさい。これは『あなたの物』なのでもらえないです」
言ってから、ハッとした。
占野の顔を見た。
彼は予想できていたことだとでもいうように、ただ苦笑していただけだった。
「欲しい」と言った物をなんでも自分の物にできる能力を行使するにあたって PURIN @PURIN1125
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