あかいみはじけた 16
金盞花の夕暮れ、臨海地区放送局ではピリピリとした空気を隠そうともせずに厳戒態勢を敷いていた。とはいっても限られた数のベテラン警備員を今回の主賓が控える楽屋周りにみっしりと配置させているというだけの配置。何の戦略性も感じられない上に、局に慣れない臨時警備員に局内を巡回業務をさせるなど考えの浅さも目立っている。
そのせいか関係者専用の受付など、普段よりもガードマンの数は少ないくらいだった。
「グッドナイトーにはちょっとイアーリィ?」
だからこそ、分厚いサングラスを掛けて黄色い花弁をつんつんに立てた、見慣れた俄か人気アイドルの入館申請など、本当にガードマンからすれば他愛無いものだったのだ。
「あーロックさん今日は入館からキャラ盛ってますねー。あれ?グラサンとかしちゃって、さてはお市さん意識してます?」
「イエッス!中央のディーバと共演なんて滅多にナッシングだからな!」
「他の方は遅れてですか?」
「イエス」
「……一応サングラス外してもらえますか?」
「……イエス」
指輪だらけの手がサングラスを外す。いつも通りの整った顔が現れた。今更ながら、瞳どころか睫毛まで黄色なのだなと、ヒトのガードマンはまじまじとその顔を見つめる。
「オッケーです。わざわざすみませんロックさん」
「ノープロブレム。こんな夜じゃな」
入館証を受け取ったロック――リウは背中を冷や汗が伝う感覚に身震いしそうになりながら、気付けば足早となる身体を抑え、自身の楽屋の近くにあるであろうハンナの楽屋に向って局内の廊下を進んでいた。
(こえ――サングラスのくだりで絶対ばれると思った――!!)
普段のキャラがわからないが故に、こっちは盛ったキャラでごり押しするしかなかったのだ。万が一にも先に入館されていないかどうかは、監視カメラの映像をエルザが傍受していたので知っていたが、こうもすんなりと行くとは。取敢えずエレベータを利用しロックの楽屋のある三階へと移動する。
(でも入れたのは良いとして、どこにハンナの楽屋があるんだ?)
小さな地方局なので楽屋の数もそう無いのはフロアの案内板で分かった。こうなれば一周ぐるっと回るしかない。
(十九時までにさっさと出て行かないと……!)
だからといって慌てて不審がられてはいけない。リウは深呼吸を一つする。
(クーが待ってるんだ)
そう静かに呟くと、重たいブーツを引き上げて歩き出す。
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