第三章
23.俺の彼女の桃園さん
第81話 付き合い始めた二人
「おはようございます、武田くん」
桃園さんがモジモジしながら俺に話しかけてくる。
「お、おはよう、桃園さん」
俺も何となくソワソワしながら答え、互いに席に着く。
なんだか変な感じだ。
まだ全然実感が湧かないけど、俺、武田タツヤは桃園さんと晴れて彼氏彼女の関係になった。
俺はチラリと桃園さんの顔を見た。桃園さんは照れながらも俺に手を振ってくれる。
ああ、なんて幸せなんだ。
でも――。
幸せと同時に、俺の胸に不安がどんどん押し寄せてくる。
付き合うって、一体何をすればいいんだ?
女の子と付き合ったことなんてないから、何をすればいいのか全く分からない!
どうしよう、変なことをして桃園さんに幻滅されたりしたら――。
「……お、おはよう」
と、背後でガラリと教室のドアが開いた音がした。
この声は、ユウちゃん!
しまった。どんな顔してユウちゃんに会えば良いんだ?
同じクラスだし、部活も同じだし、できれば気まずいことにはなりたくないんたけど、ひょっとしたら無視されたりして。
「おはよう、タツヤ」
そんなことを考えていると、ユウちゃんの方から声をかけられる。
「お、おはようユウちゃ――」
慌てて振り向いた俺の前にいたのは――メガネを外し、前髪を切ったユウちゃんだった。
「……ユウちゃん、コンタクトにしたの?」
ユウちゃんは澄んだ瞳でコクンとうなずく。
えっ、何で? やっぱり俺にフラれたから? 単なるイメチェン?
「わーっ、ユウちゃん、コンタクトにしたんだ! その髪型も似合ってるね!」
小鳥遊が目を輝かせてユウちゃんを誉めちぎる。
あ、そういえば、小鳥遊はメガネなしのユウちゃんの方が好みだったんだっけ。
「ねっ、武田くんも、似合うと思うよね?」
俺に話を振ってくる小鳥遊。
「えっ? ああ、うん。可愛いよ」
「……ありがと」
少し照れたように笑うユウちゃん。
――と、ミカンが俺の腕をぐいと引っ張った。
「ちょっと、どうなってるのよ」
「どうって――」
あ、そういえば、ミカンには俺たちのこと、話してなかったんだっけ。
「実は俺と桃園さん、付き合うことになったんだ」
「あーそう。ついにあんたたち、付き合うことになったの!」
なぜだかあまり驚いていない様子のミカン。
「ついにって……ミカンは驚かないの?」
「驚くも何も、あんたたちが両思いなのははたから見たらバレバレだったし」
えっ、そうなのか!
「そっか、それでユウちゃん、髪を切ってコンタクトにしたってわけなのね」
ミカンは小鳥遊と楽しそうに話すユウちゃんをじっと見つめた。
「もう、いっくんったらデレデレしちゃって。いくらイメチェンしたユウちゃんが可愛いからって」
拗ねたように口をとがらせるミカン。
そりゃ、ユウちゃんは本家桃学では人気ナンバーワンヒロインだったしな。
「それで? あんたたち、お昼はどうするの?」
「へっ?」
「お昼。桃園さんと二人っきりで食べるの?」
「あ、いや」
そっか。そこまでは考えてなかったな。うーん。
「別に、いつも通りみんなで食べるよ。桃園さんもそのほうが良いだろうし」
「ふーん」
「じゃあ、付き合ったって言ってもいつもとそんなに変わらないのね」
「いや、そんなことは……」
俺はポリポリと頭をかいた。
まあ、変わらないと言えば、変わらないか?
「いや……ほら、そうそう、帰りは二人で一緒に帰るよ」
放課後制服デート。一度でいいからしてみたかったんだよな。
「そっか、じゃあそこで色々できるわね」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべるミカン。
「色々って?」
「ほら、手を繋いだりとか――」
そこまで言うと、ミカンは急に声のトーンを落とし、俺の耳元で囁いた。
「キスをしたりとか、そこから先も色々と――ね?」
そこから先……って!!
「ほら、桃園さんってスタイルいいしさ、にししし」
ボッと火がついたように顔が熱くなる。
「へ、変なこと言ってんじゃねーよ!」
俺は慌ててミカンを追い払った。
「あーらごめんなさい! にひひ」
全く反省してない態度のミカン。
全く、このエロ女! そんなこと言われたら、意識しちゃうじゃねーか!
***
「はい、今日の部活はここまで。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー!」
そして今日の部活が終わり、皆が帰る準備を始める中、俺はじっと桃園さんを見つめた。
いよいよだな……。
ギュッとこぶしを握りしめる。
「あ、あの……桃園さん」
俺は恐る恐る桃園さんに話しかけた。
「はい。どうしましたか? 武田くん」
可愛らしく小首をかしげる桃園さん。
「あ、あの……その、一緒に帰らないかな……って思って……」
恐る恐る切り出すと、桃園さんは一瞬ハッとしたような顔をし、開きたての花のような柔らかな顔で笑った。
「……はい!」
良かった。ようやくこれで、桃園さんとカップルらしいことができるぞ。
俺と桃園さんは、二人で校舎を出た。
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