22.二年目の文化祭
第76話 二年目の文化祭
そんなこんなで、とうとう二回目の文化祭がやってきた。
あれから一年。月日が経つのは早いものだ。
去年は文化祭のフォークダンスの時に計画をミスって、その結果、桃園さんを悲しませてしまった。
だから今年は去年とは違うプランを用意している。
それは、フォークダンスの時間に演劇同好会のみんなで固まってみんなでダンスを踊るというものだ。
これなら桃園さんは一人にはならないし、小鳥遊とも踊れる。
重要なのは三年の時点でのダンスパートナーだから、二年のうちはこれでいい。
まあ、最近、小鳥遊と桃園さんはよく二人で楽しそうにおしゃべりなんかして、仲も深まってるみたいだし、小鳥遊と二人で踊りたいって桃園さんが言い出したらそれはそれで大歓迎だけどな。
俺はそんなことを考えながらピンク色のドレスに足を通した。
なぜ俺がスカートをはいているかというと、女装趣味に目覚めたから――ではなく、文化祭で女装喫茶をやることになったからだ。
女装喫茶をやること自体は原作にもあった展開なので知っていたが、まさか俺までジャンケンに負けて女装する羽目になるとは。トホホだぜ。
俺は長い金髪のウィッグを被ると鏡の前に立った。
「……うーん、似合わない!」
なんというか……ゴツイ! ついでにケバい! 恐ろしく強そうな女がそこには立っていた。
おかしいな。濃いメイクでも違和感が無いようにキャバ嬢を意識した衣装を用意したはずなのだが……なぜかニューハーフの悪役レスラーみたいな奴が鏡の中にいる。おかしい。夜の蝶になるはずだったのに。
うん。女装したらマンガみたいに可愛くなれると思ったが、現実はこんなもんだ。
可愛い男の娘なんて、この世にいるわけが――。
「お待たせーっ!」
すると、肩までの栗色の髪に灰色のパーカー、デニムのミニスカート、黒いニーハイをはいた美少女がこちらに駆けてきた。
「た……小鳥遊!」
で、出たっ、なし子!!
「どうかナ? 武田くん……」
上目遣いで俺を見上げてくる小鳥遊。
正直、小鳥遊の女装姿は去年も見てるから驚くまいと思っていたんだが――去年は舞台用の濃いメイクに現実離れした衣装を着ていたからそこまでとは思わなかった。
だが薄化粧に普段着っぽい服を着た今年の小鳥遊の女装は、その数倍の破壊力があった。
なんだこれ、可愛すぎる!!
「か、可愛いよ……」
「本当? 良かった。ちょっとスカート短いかなって思ったんだけど……」
足をモジモジとさせる小鳥遊。黒いニーハイとスカートの間から覗く、細くて白い絶対領域が眩しい。
「うおー、お前、小鳥遊か!?」
「すげー可愛い!」
「クラスの女子より可愛いじゃん!」
「脚キレイ! 美脚!」
案の定、あまりの小鳥遊の可愛さにクラスの男子たちがメロメロになる。
「えへへ、そうかな……ありがとう」
いいなあ。俺も女装の似合う美少年に生まれたかった……。どうして俺は、ブサイクの陰キャなんだ!
「武田氏ーっ!」
そこへ黒のロングヘアーに大きな黒のリボン、黒いゴスロリ風のドレスを着た山田がやってきた。
「げつ……山田」
「『げっ』とは何でござるか。拙者の女装姿も見るでござる!」
「えー?」
俺は山田の女装姿をじっと見つめた。山田の癖に、これがなかなか意外と似合ってる。
美人では無いが、巨乳でアニメ好きなのを生かし、底辺男子をそそのかしてオタサーの姫になった上、エロい配信をして小銭を稼ぐも精神が不安定でしょっちゅうリスカとかするメンヘラビッチなブスみたいだ。
要するに、女には見える。こういう女いるよな、という感じ。
少なくとも、ニューハーフのアマゾネスにしか見えない俺よりは上だ。
クソっ、山田に負けた!
「……まあ、似合ってるんじゃないの」
「本当? 嬉しいでござる♡」
俺にガバリと抱きつく山田。
「だーっ、やめろっ!」
「ほら、見るでござる。武田氏のために、おっぱいをたくさん盛ったでござる。おっぱいいーっぱい揉んでもいいでござるよ♡」
「だれが揉むか!」
どくさくさにまぎれて俺の手を胸に押し当ててくる山田。何が悲しくて山田の偽パイを揉まなくちゃいけないんだよ! しかもけっこう柔らかくて気持ちいいし!
「……また山田くんとイチャついてる……」
小鳥遊がボソリと呟くと、山田は挑発的にクスリと笑った。
「ふっ、武田氏は巨乳が好き。そうでござるよね♡」
「だーっ、違う! 誤解だ、小鳥遊!」
俺たちがそんなやり取りをしていると、クラスの男子たちが集まってきた。
「なんだなんだ」
「お前ら、修羅場か?」
「いいなあ、かわい子ちゃんたちにモテて」
誤解だっ!
「お疲れ様です!」
「みんなー、着替え終わった?」
そこへビニール袋を手に持った桃園さんとミカン、ユウちゃんが入ってきた。
「……これ」
ユウちゃんが俺たちにお茶のペットボトルを渡してくれる。
「おお、サンキュ」
「ん」
桃園さんとミカンも屋台で買ってきた焼きそばやお好み焼きを差し入れてくれる。
「……あ、武田くん」
俺がお好み焼きを食べていると桃園さんが声をかけてくる。
「今……食べ終わったらでいいので、ちょっと良いですか?」
モジモジと恥ずかしそうにする桃園さん。
「ああ、うん。いいよ」
一体、何だろう?
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