第61話 ストーカーの理由
渡辺さんの誤解を解いた俺と山田は、二人でアリスちゃんを問い詰めた。
「それで、アリスちゃんはなんで武田氏のことをストーカーしてたでござるか?」
山田が尋ねると、アリスちゃんはおずおずと話し始めた。
「それは……生徒会の人から、お姉さまはどうやら演劇同好会の武田って人に弱みを握られているらしいって話を聞いて……それで私も逆に武田先輩の弱みを握ってお姉さまを脅すのをやめてもらおうと思ったのですわ」
話を聞くに、どうやら生徒会の人間の間では、俺が前の生徒会長を脅しているという噂が立っていたらしい。
な、何でそんな俺が悪人みたいなことになったるんだよ!
アリスちゃんは、大きな瞳で俺を見つめると、ガバリと頭を下げた。
「お願い、お姉さまの将来のためにも、お姉さまを脅すのをやめていただけませんか!?」
俺はポリポリと頭をかいた。
「いや、別に俺は前の生徒会長を脅してる訳じゃないし……」
「でも、お姉さまの恥ずかしい写真は持っているのでしょう!? 一体お姉さまのどんな秘密を握っているのですか?」
俺と山田は顔を見合せた。
どんな写真って……どうする。あの生徒会長と紫乃先生のハレンチな写真をアリスちゃんに見せるのか?
うーん。
俺は少し考えて、生徒会長の恥ずかしい写真を見せることにした。
「ああ……分かったよ。これが俺の持っている、生徒会長の恥ずかしい写真だ」
「こ……これは!!」
アリスちゃんは俺のスマホを受け取ると、びっくりした顔で固まったあと、プッと噴き出した。
「なんておかしい写真なんですの!?」
俺がアリスちゃんに見せたのは、生徒会長がタコの着ぐるみを着て、タコ焼きを売っている写真だ。
文化祭の日に隠し撮りしたこの写真は、ちょうど白目を剥いていて口も半開きで酷い写りのものだ。これもある意味、人に見られたくない酷い写真だろう。
「こ……これは……」
アリスちゃんがブブーッと吹き出す。
「確かに、品行方正なお姉さまにとってみたら恥ずかしい写真ですわね!」
「ほら、この写真はもう消すから、これでいいだろ。俺につきまとうのはもうやめてくれ
」
「はい。分かりましたわ」
意外なほどすんなりとアリスちゃんは納得する。
「ふふ、あんな写真が恥ずかしいだなんて、お姉さまらしいですわ。私に文化祭に来るなと言っていたのはああいう訳でしたのね」
心なしか嬉しそうな顔のアリス。
心の底では、品行方正な姉にどんな秘密があるのかと気が気じゃなかったのだろう。
「ありがとうございました。これでもう、あなたをつけ回すのはやめますわ」
ペコりと頭を下げるアリスちゃん。
「ああ、頼むよ」
ホッと胸を撫で下ろす。
良かった。これでもう、アリスちゃんが俺を付け狙うことは無くなるだろう。
でも――これでアリスちゃんの目的は果たせたし、アリスちゃんはもう演劇同好会には来ないかもしれないな。
ひょっとしたら、退部届けを出されちゃうかも。
せっかく新入部員が入ってきたと思っていたのに、それはそれで寂しいな。
原作にはいなかったキャラだけど、せっかく入った一年生だし、大事にしようと思っていたのに。
ふう、とため息をつく。
小鳥遊と桃園さんをくっつけるためだけに作った同好会だけど、意外にも、俺はこの同好会にわりと愛着心を持っていたらしい。
後輩が居なくなって同好会が無くなるなんてことを考えると、寂しいもんな。
――そんなことを考えながら、放課後、俺は演劇同好会の扉を開けた。
「ちーっす」
「あ、先輩、お疲れ様ですわ!」
開けると同時に、アリスちゃんが笑顔で出迎えてくれる。
「あれっ」
俺が拍子抜けしていると、大きな目を見開いてアリスちゃんは小首を傾げる。
「どうしたんですか? 先輩」
「あ、いや、目的は果たしたし、もう演劇同好会に来る意味も無いんじゃないかと思って……」
驚いている俺を見て、アリスちゃんはクスリと笑う。
「何言ってるんですか。児童館で劇をお姉さまと見て感動した、その気持ちも本当ですわ」
「そ、そうか」
良かった。どうやらアリスちゃんはこの同好会を気に入ってくれたらしい。
「あのクリスマスの『賢者の贈り物』の劇、素晴らしかったですわ。武田先輩と桃園先輩の夫婦役、すごくお似合いで……」
アリスちゃんはうっとりと宙を見つめたかと思うと、俺の耳元でコッソリと囁いた。
「だから私、二人がカップルになれるよう、協力いたしますわね!」
は……?
はああ!?
「ちょ、アリスちゃん、それは誤解……」
「た、助けてでござる、武田氏ー!」
するとなぜか山田が走ってきて、猛スピードで俺の後ろに隠れた。
「待てーっ、山田! 私が膝枕で耳そうじしてやるって言ってるでしょ!」
追いかけてきたのは、耳かきを手にした渡辺さんだ。
「か、勘弁でござる! 耳がえぐれる~」
「んな訳あるか!」
どうやら、こちらはこちらで色々と大変そうではある。
「ふう」
もう観念して付き合ってしまえばいいのに。
――と、そんな訳で、我が演劇同好会に新入部員が二人増えたのであった。
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