第37話 浜辺のバカンス
「おー、みんな着替えたんだ?」
最後にやってきたのは凛子先輩だ。
「せっ、先輩……」
「先輩、大胆!」
みんなが驚きの声を上げる。
先輩が着ていたのは、布面積の少ない真っ赤なビキニだった。
「これは……これはもしやマイクロビキニというやつでござるか!?」
山田が興奮気味に俺の背中を叩く。
「痛たたた。山田、興奮すんな!」
あれ、おかしいな。先輩、原作では確かみんなの前では恥ずかしがって水着姿を見せず、小鳥遊の前でだけパーカーを取って水着姿を見せるっていう設定だったはず……。
何でいきなり大胆になったんだ?
あ……もしかして、小鳥遊との間でフラグが積み重なってないからか? それで俺たちにも水着を見せてくれるのか!
「ちょ、ちょっと小さすぎたかな。ネット通販で買って、試着しないで持ってきちゃったから……」
凛子先輩が顔を赤くして俺に尋ねてくる。
何で俺にそんなこと聞くんだ。
「いやいや、ちょっとセクシーだけど、似合ってますよ、なあ、小鳥遊」
「うん、先輩、スレンダーでスタイルが良いからぴったりですよ」
「そ、そうかなあ」
照れたように笑う凛子先輩。
そんな訳で、俺たちは水着に着替えた後、皆で軽食を取り、各々泳いだりビーチバレーをしたりして楽しむことにした。
「ところで武田くん、頼みがあるんだけど」
凛子先輩が俺の肩を叩く。その手には日焼け止め――ま、まさか!?
「背中に日焼け止め、塗ってくれない?」
やっぱり!
原作では小鳥遊が先輩に日焼け止めを塗る係だったが――俺は日焼け止めと先輩の赤いビキニを交互に見た。
ゴクリ。
「わ、分かりました」
仕方ない。ここは小鳥遊の貞操を守るため、俺が凛子先輩に日焼け止めを塗ってやるか!
「背中に満遍なく塗ってね」
先輩が砂浜にビニールシートの上にうつ伏せになる。そしてただでさえ布面積の少ない赤いビキニの紐をはらりと解いた。
目の前には何も身につけていない凛子先輩の背中が!
「い、いきますよ」
平静を装い、先輩の背中にタラリと白い日焼け止めを垂らす。
「あんっ……つめたいっ……」
先輩が眉を寄せてピクンと身をよじらせる。その拍子に上半身が持ち上がり、もう少しでおっぱいが見えそうになった。
「先輩、動かないでください」
「ごめん、ごめん」
先輩が再び顔を伏せる。
ぴたっ。ぬるぬる、ぬるぬる。
滑らかな皮膚の感触。俺は息を止めて一気に日焼け止めを塗りたくった。
ふー。
「終わりました」
「ありがと。悪いけど、背中の紐も結んでくれない?」
「分かりました」
俺は先輩のビキニの紐を結んだ。つーか、こんな細い紐でおっぱいを支えてるのか。
ちょっと引っ張ったらポロリしそうじゃないか……。
俺は先輩の水着をきつく固結びした。よし、これで取れないだろう。
無事ミッションを終え一息ついていると、ミカンから声がかかる。
「武田ーっ、ビーチバレーやんない!?」
ビーチボールを手に、弾ける笑顔のミカン。
ミカンの健康的なルックスは本当に海が似合う。
でも、何で俺?
あ、もしかして、俺から小鳥遊を誘えってこと?
「ああ、いいよ。小鳥遊もやるだろ?」
横で準備体操をしていた小鳥遊に声をかける。
「うん、いいよ」
「あとは――」
俺は桃園さんをチラリと見た。
桃園さんはユウちゃんと二人で砂のお城を作っていた。くーっ、可愛いなあ!
「二人はどうする? ビーチバレー」
尋ねると、ユウちゃんはフルフルと首を横に振った。まあ、そうだよな。運動とかあまり得意じゃ無さそう。
「桃園さんは?」
「そうですね……じゃあ私、行ってきてもいいでょうか?」
ユウちゃんがコクコクうなずいたのを見て、桃園さんはパレオをバサリととった。おおっ、やる気だな。
「よしっ、じゃあ、頑張りましょうね」
「うん」
ミカンの所にもどると、すでにミカンと小鳥遊はネットの向こう側におり、小鳥遊とミカン、桃園さんと俺というペアに自然となってしまった。
小鳥遊と桃園さんをペアにしたかったが、ここは仕方ないか。
「桃園さん、頑張ろうね」
「はい!」
くっ、夏の女神のようなスマイルが眩しいぜ。
「行くわよー!」
眩しい日差しを浴びて、ミカンが高くジャンプする。
「せいっ!」
ドムッ!
ビーチボールとは思えないほどの豪速球が、俺目がけて飛んでくる。
「くっ……」
何だこのボール、クソ重い! 本当に女子のサーブかよ。ゴリラみてーだな!
俺は何とかレシーブすると、桃園さんが綺麗なフォームでトスを上げた。
「だあっ!」
半ばヤケクソになりながらそのボールを反対側のコートに打ち込むと、ちょうど小鳥遊とミカンの間くらいにボールが落ち、運良く得点が決まった。
「やった!」
「やりましたね!」
桃園さんと二人でハイタッチをする。
そして自分のポジションに戻ってから、俺は自分の顔がかあっと熱くなるのを感じた。
も……桃園さんと、水着の桃園さんと触れ合ってしまった……。
いやいや、たかがハイタッチだぞ!
手と手が触れただけ!
顔をパンパンと叩き気合を入れ直すと、ミカンの声が聞こえた。
「いくよー!」
すると今度は、先程よりも明らかに威力の高いサーブが飛んできた。
げげっ!
「ぐわっ!」
何とかレシーブをしようとした俺だったが、ミカンの魔球を受け後ろに大きく飛び、尻餅をついてしまった。
「だ……大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。大丈夫……ボール拾ってくるわ」
後ろに飛んだボールを拾いに行くと、ユウちゃんと凛子先輩が、砂浜で寝ている山田の体の上に砂をかけ、おっぱいを作っているところだった。
「……うーん、武田氏……拙者のおっぱいを吸っても母乳は出ないでござるよ……むにゃむにゃ」
一体どんな夢を見てるんだ!?
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