第36話 水着パラダイス

「みんなー、カレーできたよ!」


 掃除が終わると、俺たちは綺麗になった大広間で少しの間稽古をし、それからみんなで出来上がったカレーとサラダを食べることとなった。


「いただきまーす」


 ドキドキしながらカレーを口に運ぶ。うん、上手い。普通にお母さんの作ったカレーの味って感じだ。


 良かった。これでメシマズは回避されたぞ。


「美味しいです。みなさん、お料理上手なんですね」


 桃園さんが褒めると、ミカンは照れたように笑う。


「えーっ、そんなことないよ。カレーなんて誰でも作れるし」


 いやいや、まともに作れないやつがいるからこっちが苦労してるんだってば!


「でもミカンの作るカレー、たまに水っぽくてシャバシャバしてるよね」


 小鳥遊が笑うと、ミカンは顔を真っ赤にする。


「うるさいなあ、味はいつも美味しいでしょ!?」


「でも、今日のカレーは水っぽくないでござるよ」


「ああ、それはユウちゃんが水をきちんと測って入れてくれたからだよ。ね、ユウちゃん」


 小鳥遊がユウちゃんに笑いかける。ユウちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいた。


「それは……カレー作るの初めてだから……箱に書いてるとおりに作らなきゃって……」


「そうそう。カレーは箱に書いてある通りに作るのが一番なんだよ。なんでも下手にアレンジせずにレシピ通りに作るのが一番! ミカンは何でも自己流すぎるんだよ」


 ミカンは頬を膨らませて不満げな顔をした。


「別に、最終的に美味しく仕上がれば自己流でもいいじゃん。うちのお母さんだってほとんど目分量だし」


「うちだってそうだよ」


 凛子先輩が同意する。


「計量カップとか大さじとか小さじとか使ったことないし、ほとんど目分量! アレンジを効かせてオリジナルの料理にするのも面白いし」


 うーん。なんとなくだけど、凛子先輩がメシマズな理由が分かってきたぞ。


 料理ができないのに、料理ができるお母さんの真似をして、なんでも目分量にしたりアレンジしたりするんだな。そりゃ危険だ。


「……みなさん、すごいですね」


 桃園さんがポツリとつぶやく。


「私、みなさんみたいに料理ってしたことなくて。今まで全部何でもお手伝いさんがやってくれていたから……」


 さすが桃園さん、お嬢様育ちだなあ。


 でも本人は箱入り娘なことがコンプレックスなんだよな。


「大丈夫だよ、うちの母親だって結婚するまで料理なんてしたこと無かったらしいけど、今は料理上手だし」


「そうなんですか?」


 桃園さんが少しホッとしたような顔をする。


「そうそう。それに大学生になって一人暮らしをするようになれば自然に作るようになるよ」


 と、これはミカン。


「大学、ですか」


 桃園さんは少し憂鬱そうな顔をして下を向く。


 そっか。桃園さん、劇団や芸能事務所のたくさんある東京の大学に行きたいんだけど、親には地元の大学に行くように言われてるんだっけ。色々と大変だなあ。


「はー、食べた食べた。美味しかったでござる」


「意外とお腹いっぱいになったねー」


 そしてその日は晩ご飯の片付けを済ますと、お風呂に入ってみんなで早めに就寝することにした。


「明日は朝早くから劇の猛特訓するからね!」


 凛子先輩が張り切る。


「げー」


「げーじゃないの!」


 こうして俺たちは、晩ご飯を食べ終えると早々に就寝することとなった。


 ***


 そして翌日。合宿二日目。


「はーい、ちょっと休憩!」


 凛子先輩がパンパンと手を叩く。


 時刻は昼の十二時ころ。朝の八時からぶっ通しで劇の練習していた俺たちは、ヘトヘトになりながら床に座り込んだ。


「先輩、もうすぐお昼ですけど、お昼ご飯はどうします?」


 小鳥遊が尋ねる。


「そうねぇ、昨日のカレーは朝ごはんに食べて無くなっちゃったし」


「今から作るのは面倒臭いから、スーパーで何か買ってきましょうよ」


 ミカンがパタパタとうちわで顔を仰ぎながら言う。


「そうねぇ」


「それだったら、海の家に食べに行くでござる!」


 山田がスマホを手に提案する。


「海の家?」


「この近くに海の家なんてあるんだ」


「あるみたいでござるよ、ほら、拙者たちが降りたバス停の近くに」


 山田がみんなにスマホの画面を見せる。


「へー、いいじゃない。ねぇ部長、せっかく海の近くに来たんだからみんなで泳ぎに行こうよ」


 ミカンが凛子先輩に提案する。

 凛子先輩はうーん、とうなった。


「そうだね。一日中練習しててもダレちゃうし、ちょっとここいらで息抜きしようか」


 そんなわけで、俺たちはみんなで海水浴場へと向かうこととなった。


 ***



「お待たせーっ!」


 ミカンが手を振りながら駆けてくる。

 俺と一緒に選んだオレンジのビキニが、たゆんたゆんと揺れる張りのあるおっぱいを包んでいる。


「見て見てー、どう?」


 ミカンは小鳥遊の前までくるとクルリと一回転をした。


 ミカンのオレンジのビキニは、シンプルではあるものの彼女の健康的に焼けた肌を存分に引き立たせてるくれて、元気で明るいミカンにぴったりだ。


 一見してスポーティーなんだけど、パンツ部分が紐パンになっていて、紐を引っ張るだけで今にもはだけてしまいそうなところがまたエロいんだよな。


「う、うん、可愛いよ」


 小鳥遊が照れたように答える。


「ポロリしそうなところがまた良いでござるね!」


「うるさい」


 山田がひょっこりと横から顔を出すと、ミカンはそれをどついた。


「あんたには見せてないっつーの!」


「まあまあまあ……」


 俺がなだめていると、後ろから声がした。


「みなさん、お待たせしてすみません」


 振り返ると、そこに立っていたのは桃園さんだった。


「おおっ」


 思わず声が漏れる。


 桃園さんが着ていたのは、レースがあしらわれた可愛らしい薄桃色のビキニ。


 素材の上品さとは裏腹に、桃園さんの白くむっちりとした巨乳は小さなビキニの中に収まりきらず、横からむにっとはみ出している。


 下半身を覆うのは薄桃色の可愛らしいパレオだが、パレオで隠れてはいるものの、布の隙間から見えるパンツ部分はこれまた布面積が極端に少ない。


 桃園さんのボリューミーな桃尻や鼠径部の形がくっきりと透けて見えるではないか。


 こ……これは……エッチすぎる!


「ど……どうですか? 武田くん」


 桃園さんがモジモジしながらこちらを上目遣いに見る。


「う……うん……可愛い……よ」


 や、ヤバい。こんなにエッチで可愛い女の子、海に置いておいては危険なのでは??


 というか、原作では可愛いワンピースタイプの水着だったはずなのに、何で違う水着になってるんだろう。


 いや、俺は好きだけどさ、こういう大胆な水着も。


「……あの」


 頭にがあっと血がのぼっている俺の腕を引っ張ったのはユウちゃんだ。


「あ、ユウちゃん」


「 あの……水着……着替えてみたんだけど……」


 モジモジと下を向くユウちゃん。


 ユウちゃんの水着はセパレートタイプで、上が水色のフリルで下は青い花柄とかなりオシャレだ。


 ――あれ? でも確か、俺の記憶ではユウちゃんは黒いスクール水着を着ていたはずなんだが。


 あ、そっか。原作と違って桃園さんと仲良くなって二人で水着を買いに行ったから、それで水着がお洒落になったんだな。


「おお、ユウちゃんの水着、いつもと全然イメージ違う。可愛いね」


「ほ、本当……?」


 ほくほくとした顔のユウちゃん。


 うん、俺としては特にスクール水着に思い入れは無いし、こっちの方が可愛いから好きかな。


 何でかよく分からないけど、みんな原作より可愛い俺好みの水着になってる。


 海に来て良かった!

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