第24話 熱演!シンデレラ

 そして本番当日。


 俺が黒子の衣装に身を包み、ダンボールでできたかぼちゃの馬車を確認しているとユウちゃんがやってきた。


「緊張する」


 ユウちゃんは、出番を前にかなり表情が硬くなってる。大丈夫かな。


 すると後ろから小鳥遊が声をかけた。


「大丈夫だよ、今まで練習してきたことを信じて」


「うん」


 や、ヤバい。小鳥遊とユウちゃんがいい感じだ。やはり一緒に練習をしているうちに仲良くなってしまったか!


 俺はあわててユウちゃんと小鳥遊の間に割って入った。


「大丈夫だ、ユウちゃん! ユウちゃん、かなり上手くなったし、変に上手くやろうとか思わなくても、何も考えず楽しめば大丈夫だから」


 俺がまくし立てると、ユウちゃんはキョトンとした後で、嬉しそうにコクリとうなずいた。


「うん、そうする」


 ふー、やれやれ。


 すると蜜柑が俺の肩をポンポンと叩いた。


「あんた、いい事言うじゃん!」

 

 そ、そうか?


 まさかミカンに褒められるとは……。


「そうですよね。私も楽しんで演じることにします」


 桃園さんもふんわりと笑いかけてくれる。

 その笑顔の可愛さに、体温がぐっと上がるのを感じた。


「ま、俺は黒子だから気楽にものを言えるってのもあるんだけどな、あはは」


 慌ててごまかす。


 危ない危ない。


 あんな笑顔向けてくるなんて……うっかり惚れてしまうじゃないか。


 桃園さんは小鳥遊のものなのに。


 そして、劇は始まった。


「ああ、私も舞踏会に行きたいわ」


 シャララ~ン。


「その願い、叶えてあげましょう」


 来たっ。もうすぐ出番だ。


 俺の出番は一瞬だが、手に持ったネズミのプレートを馬に、カボチャを馬車に持ち替えるのが大変で、ドキドキしながら何とかやり遂げる。


「でも、舞踏会にはいていく靴がありません」


「大丈夫よ、シンデレラ。それならこれを」


 桃園さんが靴を差し出す。


 衣装で最も悩んだのがこのガラスの靴だったんだが、子供用の靴コーナーで見つけた透明でラメの入った靴がユウちゃんにピッタリだったので、何とかなったんだよな。


 そう考えるとやっぱり、ユウちゃんをシンデレラにして正解だったかも。


「ふう、お疲れ様です」


 出番を終えた桃園さんが戻ってくる。


「お疲れ様」


 ステージの上を見ると、ドレスを着たユウちゃんと、王子様の格好をした小鳥遊が優雅にダンスを踊っていた。


「綺麗……」


 うっとりとする桃園さん。


 ユウちゃん、眼鏡がないとダンスが不安、なんて言ってたけど、ちゃんと踊れてるし、ロングヘアーのウイッグも似合ってて、やっぱりこうして見るとかなり美少女だな。


 小鳥遊は小鳥遊で、「俺はどこにでもいるごく普通の高校生」なんて言ってるのに、かなりイケメンだし、王子様ルックも様になってる。


 こうして見ると、やっぱりみんなが惚れちゃうの、分かるような気がするな。生まれながらの主人公。俺なんかとは格が違うという感じだ。


「武田くん、もうすぐ出番じゃありませんか?」


「あ、そうだ。ぼんやりしている場合じゃない」


 俺は慌てて従者の格好に着替えると、ステージに出ていった。


「ここには、もう一人娘さんが居るのではありませんか?」


「居るにはいますが、本っ当にみすぼらしいし仕事もできない灰かぶりで! 調べなくても結構でしてよォ!!」


 相変わらず、山田のやつ、テンション高いな……。


「一応、全員を調べなくてはいけませんので。さ、シンデレラ」


 ガラスの靴を差し出すと、ユウちゃんがおずおずと足を入れる。


「おお、ピッタリだ!」


「あなたがあの時の……」


 王子の問いに、シンデレラはうなずく。


「はい」


「ぜひ、僕の妃に!」


「何ですってぇ!? ありえない!! キイエイイイイッ! こんなの、ありえないわァァァ!!!!」


 ハンカチを噛む山田。


「こうして、シンデレラは王子様と結婚し、末永く幸せにくらしましたとさ」


 桃園さんのナレーションで劇は終わり、最後に俺たちは全員で舞台の上に集合した。


「みなさん、見てくれてありがとうございましたー!」


 この時俺は、初めて舞台の上から観客を見た。


 観客は、みんな小さな子供とその保護者で、子供たちはみんな目を輝かせて拍手を送っていた。


 俺はその光景に、不覚ながらも少しじんわりとしてしまった。


 ――と、俺は観客席の中に見覚えのある金髪を見つけた。


 ん? あれはまさか……。


 すると劇が終わり幕が降りた瞬間に、小鳥遊が駆け出した。


「いっくん、どこ行くの?」


「ちょっと用事があって……待ってて!」


 俺がこっそりと小鳥遊の後を追いかけると、小鳥遊はやはりというか、観客席にいた生徒会長に話しかけていた。


「生徒会長! 見に来てくれたんですね!?」


 小鳥遊が生徒会長の腕をつかむと、生徒会長はポッと顔を赤くした。


「ふ、ふんっ、勘違いなさらないで下さる? 私はただ、この学校の生徒が子供たちの前で教育に悪い劇を見せないか見張っていただけ」


 いやいや、学校で散々教育に悪い行為をしていたのは誰だよ!?


「ただ、今回はそういった行為も無かったようですし、私は凡庸な劇だと思いましたが、妹は喜んでいたようです」


 そう言って、会長は横にいた金髪美少女の頭を撫でる。そういえば、原作にもこんなシーンあったっけ。


「よって、要求通り、部費も少しばかり増額することにしますわ」


 腰に手をあて、宣言する生徒会長。


 嘘つけー!! 俺と山田が脅したからだろ!


「あ……ありがとうございます!」


 小鳥遊が感激したように頭を下げる。

 生徒会長は満足そうに長い金髪をかきあげて去っていった。


「……生徒会長、意外といい人なんだな」


 ポツリとつぶやく小鳥遊。


 まあ、小鳥遊は真実を知らない方がいいかな。


 こうして演劇同好会の初めての劇は幕を閉じたのだった。

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