第20話 配役を決めよう!

 や、ヤバい。


 あれよあれよという間に、劇の演目の候補が桃太郎かシンデレラに絞られてしまった。


 くっ……。


 密かに下唇を噛む。


 こうなったら、男女のダンスシーンがあるだけシンデレラのほうがマシか。


 俺は苦渋の決断を下した。


 しかたない、シンデレラに投票しよう。


「それだったらシンデレラがいいかな。だってシンデレラと姉ふたり、三人ドレスが着れるしさ!」


 ミカンが手を挙げる。よしよし。


 やっぱり女の子というのはドレスに憧れるものなんだな。

 まあ、ただ単に猿やキジよりマシってだけかもしれないけど。


 凛子先輩が決を採る。


「それじゃあ、桃太郎がいい人!」


 しーん。


「シンデレラがいい人!」


 全員の手が上がる。


 そんなわけで、劇の演目はシンデレラに決まった。


 俺はホッと胸をなでおろした。

 どうやら最悪の事態は回避できたが――。


 頬を脂汗が流れ落ちる。


 なぜだ。本家桃学の原作と違うぞ。


 もしかして、同好会のメンバーが増えたことで、展開が変わってしまったのか!?


 クソっ、いくら桃園さんのためとはいえ、色々と引っ掻き回しすぎたか。


 まぁいい。ここから挽回していこう。こうなったら、絶対に桃園さんをシンデレラに、王子様を小鳥遊にしてやるぞ。


 二人のロマンチックなダンスシーンを思い浮かべ、ニヤニヤする。


「それでは配役ですが、立候補したい人はいますか?」


 凛子先輩が俺たちの顔を見渡す。誰も手をあげない。


 よしよし。なら、俺が桃園さんをシンデレラに、小鳥遊を王子様に推してやるぜ。


 ミカンがサッと手を挙げる。


「はい! 王子様は、いっくんがいいと思いまーす」


 おお、ミカン。ナイスプレイ!


 お前はやる女だと思ってたぜ。


 あとはシンデレラ役だな。

 くくく、待ってろよ、桃園さん。今、桃園さんをシンデレラに推してやるからな!


 すると、おずおずと桃園さんが手を挙げる。


「あの、私、シンデレラ役はユウちゃんがいいんじゃないかと思うんです」


 は?


 思わず手に持ったチョークをポロリと落とす。


 ええええええ!? 何でだよ!!


「まあ、確かに、ユウちゃんは女子の中で一番小さいでござるからなぁ。お姉さん役やお母さん役だと変でござる」


 山田が同意する。

 こら山田、余計なこと言うな!


「うーん、まぁ、確かに。シンデレラって、姉妹の中で一番足が小さい設定だしね」


 ミカンまで渋々ではあるが同意する。


 おいおい、どうしたんだよミカン。お前は小鳥遊ひとすじのはずだろ?


 ユウちゃんに小鳥遊を取られてもいいのかよ!?


「ユウちゃんはどう思う?」


 小鳥遊がユウちゃんに尋ねる。


 俺がユウちゃんをじっと見つめていると、ユウちゃんは戸惑ったように下を向いた。


「私は……主役なんてやったことないし……恥ずかしい……かも」


 そ、そうだよな! 主役なんて目立つこと、ユウちゃんがやりたがるはずがない!


 断るんだ。断るんだユウちゃん!


「タツヤはどう思う?」


 と、ここでなぜかユウちゃんが俺に話をふってくる。


「ん、俺? ……ああ、そうだなぁ。ユウちゃんは可愛いし、シンデレラも似合うと思うけど、もしやりたくないのなら、無理して――」


「無理、じゃない」


 ユウちゃんがポツリと言う。


「タツヤがそう言ってくれるのなら、私、がんばる」


 はぁ!? な、何でそうなる!?


「あ、そ、そう……頑張ってね……キミならできる……」


 だが、まさか駄目だなんて言うわけにもいかず、やむを得ず俺はユウちゃんを励ました。


 はあ、小鳥遊とユウちゃんのフラグを頑張ってへし折ったはずだったのに、どうしてこんな事になっちゃうんだろう。


 結局、劇の配役は


・シンデレラ ユウちゃん

・王子様 小鳥遊

・魔法使い 桃園さん

・意地悪な義母 山田

・意地悪な姉1 凛子先輩

・意地悪な姉2 ミカン

・王子の従者、かぼちゃの馬車 俺


 というふうに決まった。


 ちなみに、監督は俺、脚本は小鳥遊、大道具や小道具、衣装は全員が受け持つことになった。


 原作では、小鳥遊が監督と脚本をつとめていたんだけど、今回、俺には小鳥遊とユウちゃんを必要以上にくっつかせないという使命があったため、監督に立候補させてもらった。せめてもの抵抗である。


 でも本当に、これで小鳥遊とユウちゃんの仲が深まっちゃったらどうしよう。


 桃園さんと小鳥遊をくっつけたいのに、どうしてこう、上手くいかないんだよ!


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