第8章 六魔将ディアルヴァ

1 「空が」

 二体の魔族との戦いから数日、俺は王都に戻っていた。


 で、今朝も新しい依頼を探しにギルドまで行くと、


「また会いましたねっ、ハルト・リーヴァ」


 入口の近くに、彼女が敢然と立っていた。


 燃えるような赤い髪をセミロングにした十二、三歳くらいの少女だ。

 俺の胸くらいまでの小柄な身長に、ビキニのような鎧を身に着けている。

 ただ幼げな体型のために色気はゼロだった。


「……今、何か失礼なことを考えませんでしたか?」


 彼女──アイヴィが俺をジロリとにらむ。


「ぎくり」


「ぎくり?」


「い、いや、この間は世話になったな、なんて思ったりして……はは」


 気圧され気味になりつつ、彼女の背後にいる人影に視線を移す。


「こちらこそ、あなたの協力のおかげで魔族をすみやかに倒すことができたわ」


「あ、ハルトくんだ。おっはよー」


 青い髪をショートヘアにした少女騎士と、紫の髪をロングヘアにした踊り子。

 ルカとサロメである。


「みんなも依頼を探しに来たのか」


「いえ、私とサロメはもう新しい依頼が決まっているの。今から出立よ」


 と、ルカ。


「行先は北方のバーラシティ。内容は野生のモンスター退治」


 相変わらず淡々とした口調で説明する。


「国境沿いだからちょっと遠いんだよねー。でもバーラシティといえばアドニスきっての温泉街っ。あったかい温泉に入って美味しいもの食べて……ふふ、楽しみ~」


 ルカとは対照的に、サロメはめちゃくちゃ嬉しそうだった。

 完全に観光気分になってるらしい。


「モンスターが出現する場所がいくつかあるそうだから、二週間くらいはかかるかもしれない。しばらくはお別れね」


「ん? ハルトくんに会えなくて寂しいとか?」


 サロメが悪戯っぽい口調でルカにたずねた。


 いやいや、このクールっ娘にかぎってそんなこと──。


「っ……!」


 なんで顔赤らめてるんだよ、ルカ?

 彼女のこういう表情は珍しい。


「なんか意外な反応だね」


 驚いたようなサロメ。


「さ、寂しく、なんて……その、私は……」


 ルカはごにょごにょとつぶやき、顔を背けた。


「ま、いっか。じゃーね、ハルトくんっ」


 サロメがギュッと抱きついてきた。


 露出の高い踊り子衣装だから、柔らかな肌の感触がダイレクトに伝わってくる。

 しかも豊かに実った胸の膨らみが思いっきり押しつけられている。


 むぎゅぅぅぅぅっ、と俺の胸板の辺りで、サロメのおっぱいがいやらしい形に潰れているのが見えた。


 ううっ、これはエロい──!


「……ギルド内で何をベタベタしてるのかなー?」


 ふいに背後から怒ったような声が聞こえた。


 振り返ると、リリスが顔を引きつらせて立っている。

 千客万来というべきか、今日は次から次に会うな。


「えへへ、しばらく会えないし、お別れの挨拶を」


 言いつつ、なぜかリリスに見せつけるように、ますます抱きついてくるサロメ。

 密着度合いがさらに強まり、さっきからおっぱいが……おっぱいが……うおおお。


「く、くっつきすぎでしょっ」


「あらあら、これは修羅場ですね~」


 叫ぶリリスの隣には、なぜか妙に嬉しそうなアリスの姿。


「あはは、ヤキモチ焼いてるんだ。可愛い」


「こ、公衆の面前でそういうのはよくないと思うの」


 リリスが顔を赤くして言いつのる。


「ん? んんんっ? ボクが知らないうちに、ハルトくんと何かあったの?」


 サロメがふふんと鼻を鳴らす。


「前より『恋する乙女』感が増えてるよねー」


「こ、ここここここ恋って、あたしはべ、別にっ……!」


 リリスが慌てた様に叫んだ。


「リリスちゃんは初心ですから~」


「好きな男はしっかりつかまえとかないと、誰かに取られちゃうよ。じゃあね~」


 ぱちんとウインクをして、サロメはルカとともに去っていった。




「……案外、女にだらしない人なんですね。ハルト・リーヴァ」


 アイヴィが上目遣いに俺をにらんだ。


「デレデレして」


「別にデレデレなんて……」


 ──してましたね、はい。


「で、そちらのお二人は?」


 ジト目のままたずねる彼女に、俺はリリスたちを紹介した。


「アリスさんとリリスさん──あ、お姉さまから聞いています! 初めましてっ」


 たちまち態度が変わるアイヴィ。


「あたしはアイヴィ・ラーズワースです。お見知りおきを」


 キラキラした目でアイヴィがリリスとアリスを見つめる。


「お姉さまに負けず劣らず、お二人とも美しいですね。はあ、憧れます……」


「ふふ、ありがと」


「アイヴィさんも可愛いですよ~」


 リリスとアリスが微笑む。


「お近づきのしるしに、どこかでお茶でもいかがですか? お姉さまの友はすなわち、あたしの友……っ! こんな綺麗な人たちとお友だちになれたら、アイヴィはとてもとても嬉しいですっ」


 アイヴィはグイグイと迫った。

 目が爛々としているし、鼻息も荒い。


「じゃあ、ハルトも一緒に。ね?」


 リリスが俺を誘う。


 可憐な笑みに、どきんと胸が疼いた。

 先日のキス以来、どうしても顔を見ると意識せずにはいられない。


「えっ、男なんていいじゃないですか。あたしたちだけで楽しい女子会しましょうよ。ね? ね?」


 アイヴィが難色を示した。


「まあまあ。ハルトさんもせっかくですからご一緒に」


 にっこり顔でとりなしたのはアリスだ。


「リリスちゃんも喜びますよ」


「ち、ちょっと、姉さん、あたしは……」


「嬉しくないんですか?」


 アリスの笑みが深くなった。


「……そ、その……うれ、しい……かな……えへへ」


 真っ赤になって小声でうなずくリリス。


「どうでしょうか、アイヴィさん。四人で、というのは?」


「お二人がそう仰るなら……まあ」


 渋々といった感じでアイヴィがうなずく。


「男なんて本来ならお呼びじゃないですけど、特別に許可します。ハルト・リーヴァ」


「ありがとうな、アイヴィ」


「し、正面きってお礼を言われると……っ、調子が狂いますっ」


 礼を言った俺に、ぷいっとそっぽを向くアイヴィ。

 意地っ張りだけど照れ屋なところは年齢相応の可愛らしさがあるなぁ、とつい和んでしまう。


 というわけで、俺たちは支部の建物内にある喫茶店へ行った。

 四人掛けの席で紅茶や東方産の緑茶を飲みながら、しばらく歓談──といっても、主に三人の女子トークだけど──をしていた。




 ──突然すさまじい震動が起きたのは、そんな最中だった。




「なんだ……!?」


 俺たちは喫茶店の窓に視線を向けた。


「空が──」


 リリスが上空を指差す。

 そこには真っ黒い穴が出現していた。


黒幻洞サイレーガ』。


 この世界と魔の世界を繋ぐ、亜空間通路。


 あれが現れたってことは、つまり──。


 息を飲んだ次の瞬間、穴の向こうから五色の光がきらめいた。


 赤、青、緑、黄、紫──。

 五つの輝きが流星のように王都に落下する。


 先ほど以上の、すさまじい震動が起きた。


「なんだ──!?」


 あの光は、魔族や魔獣が降り立ったっていうことなのか。


 それも五体同時に。

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