2 「私が認めた人だから」

 俺が受けた依頼は、ミルズシティ近郊にあるダンジョンの探索だった。


 例によって防御スキルを駆使し、罠やモンスターがうようよいる危険地帯も余裕で踏破しての高速探索だ。

 スキルが以前より成長していることもあって、まったく危なげなく進むことができた。


 一通りの探索を終えると、俺はミルズシティのギルド支部に戻ってきた。


「えっ、もう終わったんですか?」


 数時間で戻ってきた俺に、ギルドの受付嬢は驚いた顔だった。


「ランクAやBの方でも手こずっていたダンジョンなのに……」


 確かに、今までのダンジョンに比べて、罠やモンスターの数が多かった気がする。


 俺の場合は、そのすべてをスキルで完封できるからドンドン進めるわけだけど、普通の冒険者だと慎重に罠を解除したり避けたり、モンスターと戦ったり逃げたり……と進むだけで大変だろう。


「探索は得意なんです」


 俺はにっこり笑って、ギルドカードを差し出した。


 このカードは冒険者であるという身分証の役割以外に実績の記録媒体にもなっている。

 依頼を達成するたびに、受付にある魔法装置でそれを記録してもらう仕組みだ。


「では、今回の件をハルトさんの実績に加えますね」


 受付嬢は、カウンターの側に置かれた記録装置のスロットに俺のギルドカードを差しこんだ。


「一ヶ月ちょっとでダンジョン探索達成が……に、二十七件!? すごいですね……!」


 目を丸くしながら、受付嬢が俺にカードを返してくれた。


 そういえば、随分と探索を重ねたな。

 その分は実績として確実にカウントされている。


 次のランクに上がるのも、そう遠くはないかもしれない。




「ハルト……?」


 受付カウンターを出たところで、声をかけられた。


 振り返ると、騎士甲冑をまとった十五歳くらいの少女が立っている。

 ショートヘアにした青い髪に、神秘的な紫色の瞳。

 表情の乏しさが超然とした印象を与える美貌。


ひょうじん』のルカ・アバスタ。


 冒険者の中で最強に位置するランクSの少女である。


「ルカ、久しぶりだな」


 最後に会ったのは、俺がギルドに合格したお祝いで、リリスたちと飲み会をしたときか。

 だいたい一ヶ月くらい前のことだ。


「ランクDに上がったそうね。活躍は聞いているわ」


 ルカはあいかわらずの無表情で淡々と告げる。


「お姉さま」


 と、連れの少女がルカの手を引いた。


 炎を思わせる真紅の髪をセミロングにしている。

 年齢はルカよりさらに若く、まだ十二、三歳じゃないだろうか。

 いかにも勝ち気で生意気そうな顔立ちの美しい女の子だった。

 身に着けた金属鎧は胸元と腰を重点的に守っていて、どこかビキニ水着を連想させる。


 ……といっても、俺の胸の辺りまでの身長や凹凸がほとんどないぺったんこな体型も相まって、色気はゼロだった。


「お知り合いですか? お姉さまが男なんかと親しげにするなんて、初めて見ました。男なんかと……!」


 やたら不機嫌な口調だ。


「ハルト・リーヴァ。一月ほど前に冒険者なった防御魔法の使い手。先の魔将戦で大きな功績を上げた人よ」


「……功績を上げた?」


 女の子は眉をひそめ、


「それはお姉さまでしょう。魔将を倒したのは、お姉さまのお力です」


「公的にはそう記録されたようね。だけど、実際は──」


「いいえ、魔将を倒したのはお姉さまです。あたしはそう信じています」


 少女はルカの言葉をさえぎり、ぶんぶんと左右に何度も首を振った。


「お姉さま、って……ルカの妹なのか?」


「妹分、です」


 少女がずいっと顔を近づける。

 妙に鋭い目つきで俺をにらんだ。


「彼女はアイヴィ・ラーズワース。年齢は十三。クラスは戦士ファイター。ランクAの冒険者よ」


 ルカが紹介してくれた。


「ルカたちはどうしてここに?」


「ギルドの虚無闇測盤ヴォイドレーダーに反応があったの。およそ二日後、ミルズシティ付近に魔族が出現するわ」


 と、ルカ。


「相手の脅威度はクラスA。私はたまたま手が空いていたから、彼女と一緒に討伐任務につく予定」


「お姉さまのお手をわずらわせるほどの相手ではありません。どうか、あたしにお任せください」


 アイヴィがルカの腰にギュッと抱きつく。

 お姉さまという呼び方と相まって、甘えん坊の妹みたいな態度だった。


「魔の者との戦いでは何が起こるか分からない。できればハルトにも手伝ってほしいところだけど、まだランクが足りないわね」


「お姉さま、ランクDの冒険者になんて頼る必要はありません」


 アイヴィが猛然と言いつのった。


「ハルト・リーヴァ、といいましたか。討伐任務の邪魔ですから、任務のときは引っこんでいてくださいね」


「言いすぎよ、アイヴィ」


「申し訳ありません、お姉さま」


 アイヴィが頭を下げた。

 ルカの言うことには素直に従うらしい。


「でも、ランクDですよね……お姉さまが認めるような人にはとても……しかも男だし。男だし……」


 ぶつぶつと不満げにつぶやく。


「冒険者の実力はランクだけで分かるものじゃないわ。彼は、私が認めた人だから」


 ルカが淡々と告げた。


「ギルド入会審査の模擬戦で、私は奥義を使ったけれど彼を打ち破ることはできなかったわ」


「お姉さまが──」


 アイヴィが息を飲んだ。


「だけど今回の戦いでは必要ありません」


 じろりと俺をにらむ。


「覚えておくことですね。いずれお姉さまに認められるのは、このあたしです。唯一無二のパートナーとして」


 バチバチ、と視線から火花が散っているような錯覚を感じた。

 なんか妙なライバル意識を持たれてないか、俺?


「それはそうと、ハルト。後で少しいいかしら? あなたにお願いしたいことがあるの」


「俺に?」


「一時間後に、町はずれのビッタの森に来てもらってもいいかしら」


 ルカの頼みを俺は了承した。


 あらたまって、どんな用事だろう?

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