3 「具象決殺」

 メリエルの攻撃魔法一発でリザードマンが消滅した光景を、俺は呆然と見ていた。


 リリスやアリスも驚きに目を丸くしている。


「あ、つい、倒してしまいました……どうせならモンスターに攻撃させて、ハルトさんの力を見極めればよかったですわね……好機を逸してしまいました」


 メリエル自身はなぜか浮かない顔だ。


「え、好機って?」


「い、いえ、なんでもありませんの、おほほほほ」


 手の甲で口元を覆い、高笑いするメリエル。

 ……この子、何かをごまかそうとするときのパターンが一緒だな。


「すごい、まるでランクS冒険者みたいです~」


「うう、自信なくしちゃうな、あたし……」


 感嘆するアリスと、落ちこんでいるリリス。


 門番代わりらしきリザードマンをあっさり倒した俺たちは扉の向こう側へと進んだ。


 どうやらそこが最深部だったらしく、祭壇のような場所になっていた。


 前方には巨大な壁画がある。

 かなりの年月を経ているらしく、あちこちがボロボロに痛んでいた。


 壁画に描かれているのは、重甲冑をまとった騎士や翼を生やした乙女、竜の顔をした人間、炎をまとった人影など全部で七人。


 それぞれの胸元に宝玉がはまっていて、白、赤、青、緑、紫、黒、そして──虹色をしている。

 赤い宝玉と虹色の宝玉がチカチカと瞬いていた。


 光の具合で点滅しているように見えるのかな?

 それとも──。


「七体の古代神、ですか」


 メリエルがつぶやいた。


「えっ?」


「かなり崩れていますけど、おそらく古代の神を描いたものですわ。中央にいる竜人が至高神ガレーザ、騎士の姿をしたのは戦神ヴィム・フォルス、火をまとっているのが炎と殺戮の神メルギアス──」


「随分詳しいんだな」


「あ、その……以前に本で読んだことが。おほほほほ」


 慌てたように口をつぐみ、例の高笑いをするメリエル。


 ……ホント、嘘ついてるのが丸わかりなんだけど。

 内心で苦笑する俺。

 でも、何をごまかそうとしてるんだろう?


 ともあれ、これでとりあえず探索終了だ──。




 翌日、ギルドに戻った俺たちは、遺跡内部の道筋や罠の配置などを記したものを書類にまとめて受付に渡した。


「みなさん、本当にありがとうございました」


 メリエルが俺たちに深々と頭を下げる。


「お礼を言うのはこっちのほうよ。ハルトもメリエルもありがとう」


「みんなの力で達成したんですもの。メリエルさんだって活躍してましたし~」


「そうそう、リザードマンを一発で倒したもんな」


 俺は昨日の彼女の攻撃魔法を思い出す。

 あれは強烈だった。


「すごかったよね……あたしもがんばらなきゃ」


 リリスが燃えている。


「またみんなで一緒に仕事できたらいいね」


「ですが、なぜわたくしに声をかけてくださったのですか?」


 メリエルが怪訝そうにたずねた。


「わたくしがランクアップしたところで、あなた方には益などありません」


「利益とかじゃないよ。せっかく知り合ったんだし、友だちの役に立てたら、あたしたちも嬉しいな、って。でしょ、姉さん」


「ですぅ」


 うなずきあうリリスとアリス。


「友だち……ですか」


 ぽつりとメリエルがつぶやく。

 と、


「おいおいおい、てめえらごときがダンジョンを攻略したのかよ」


 野卑な声が、俺たちの団らんを打ち破った。


「ランクBの俺らがダメだっていうのに……どうなってやがる!」


「インチキだ、インチキに決まってる!」


 と、口々にがなりたてる。

 昨日、ダンジョンの入り口で出会った冒険者たちだった。


「いや、リリスとアリスも同じランクBだぞ」


 リリスたちを見下しているから、てっきり格上のランクAかと思っていた。

 同ランクだったとは……。


「う、うるせえ! そいつらはコネで冒険者になっただけだろ。実力で這いあがってきた俺らとは違う!」


 以前にもリリスたちのことを悪く言う連中がいたけど、こいつらも同類か。


「なんの騒ぎだ?」


「おい、あれ。例のラフィールの……」


 声を聞きつけたのか、野次馬が集まってきた。

 冒険者に加えて、通行人もちらほらと混じる。


 ──ぞくり。


 ふいに妙な悪寒が走った。


 なんだ……?


「おいおい、ビビッてんのか? インチキだってのは図星だったのかよ」


「インチキなんかじゃない。俺たちは──」


「なら見せてみろよ。お前らが『本物』の冒険者かどうか、確かめてやる」


 言い返す俺に、男がいきなり構えた。


 どっしりと腰を落とし、垂直に立てた右腕を前に、左手は腰だめに。

 どうやら武闘家らしい。


 と、思った瞬間、男が動いた。


 速い──!


 俺の反応を超えるスピードで、背後に回りこむ男。

 そのまま太い両腕が俺の首に巻きつく。


 流れるような動作からの絞め技だ。

 戦闘に関しては素人の俺は、抵抗できない。


 ──そもそも、抵抗する意味もないんだけど。


 俺の前方には天使の紋様が浮かび、淡い光が全身を覆っていた。


「へへへ、すぐに落としたりはしねーよ。じわじわと息が詰まっていく苦しさを味わえ」


 言葉通り、男は一息に締め落そうとはしなかった。

 俺を捕まえたまま、ジリジリと両腕の力を強めてくる。


「そら、苦しいか? 苦しいよなぁ、はははは」


 勝ち誇る男の声を、俺は冷然と聞いていた。

 スキルで全部防御してるから苦しくもなんともない。


「な、なんだ、これ……?」


 余裕の様子だった男の声に、戸惑いの色が混じった。


「おかしい……締められない……!?」


「どうした? 遠慮なく締め落してもいいぞ」


 俺はにやりと笑った。


「て、てめえっ!」


 たちまち男は逆上して、さらに力を強めた。

 たぶんフルパワーになったんだろう。


 でも、無駄だ。


 俺は護りの障壁アーマーフェイズを『受け止める』タイプから『弾き返す』タイプに切り替えた。

 締めつける腕力をそのまま跳ね返し、男を吹っ飛ばす。


「がはっ……」


 なまじ力を強めたせいで、より強力なカウンターを受けた男は、おもいっきり地面に叩きつけられた。


「く、くそ、マジでキレたからな、この野郎……!」


 立ち上がった男は、顔を真っ赤にしていた。


「もうキレてるだろ、さっきから」


 さすがに辟易する。


「うるせえ、今度こそ本当の本気でキレたんだよ!」


「俺ら、キレると何するかわかんねーぞ、へへへ」


 さらに他の冒険者たちも加勢の構えを見せた。


「貴族令嬢相手だろうが、やるときはやるからな!」


「むしろヤリてーよ、ふへへへ」


 下品な視線をリリスやアリスに向ける男たち。


「なんだと……!」


 さすがに今の発言は看過できなかった。


 リリスたちに危害が及んだら──。

 考えるだけで強烈な怒りが湧く。


「ふざけるな。そんなこと絶対に──」


 許さない、と俺は奴らに詰め寄ろうとして、




「──殺意装填リロード




 突然、冷え冷えとした声が響いた。


「えっ?」


具象決殺バレット


 何もない空間に、ぽつり、と。


 赤い光球が出現する。


 手のひらくらいの大きさのそれは、男たちの一人に向かっていき、胸元に吸いこまれ──。


「が、は……」


 苦鳴とともに、その男は倒れ伏した。


「お、おい、ライル!?」


「どうした、しっかりしろ!?」


 倒れた男の元にしゃがみこむ冒険者たち。


「し、死んでる──」

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