第6章 守護者VS殺戮者

1 「遠からず出会うでしょう」

 それは夢か、幻か、あるいは別の何かなのか──。


 俺は真っ白い空間で彼女と対面していた。


 肩まで伸びた、ふわふわした金髪。

 つぶらな青い瞳。

 体のサイズに合ってないぶかぶかの貫頭衣を来た、幼くも可愛らしい女の子──。


「イルファリア……さま?」


「お久しぶりですね、ハルト」


 そう、俺の目の前に立っているのは、幼女バージョンの女神さまだった。

 ……正確には女神さま本体ではなく、その意志の断片だって説明されたけれど。


 前に出会ったのは、魔将との戦いの最中だったから約一ヶ月ぶりである。

 あれだけ呼びかけても返事がなかったっていうのに、急にどうしたんだろう。


「スキルの調子はどうですか?」


「おかげで冒険者生活の役に立ってます。昇級もできましたし」


 ここ一ヶ月は戦闘以外の用途でスキルをフル活用してきた。

 おかげで実績を積み上げた俺は、三日前にランクEからランクDへと上がることができたのだ。


「ふふ、それは何よりですね」


 微笑んだ女神さまは、そこで真顔に戻った。


「じー」


 俺をまっすぐに見つめる。


「な、なんですか……?」


「じー」


 構わず見つめ続ける女神さま。


「……なるほど、共鳴が始まってますね」


「へっ?」


「七柱の神が七つの選ばれた魂に与えた神のスキル──それがすべて地上にて顕現、覚醒したことで、お互いに共鳴しているのです」


「はあ……」


 女神さまが語った内容は、今一つ意味が分からなかった。


「あなたたちのスキルは互いに呼び合い、引かれ合い、その強さを増していくでしょう」


 じゃあ、俺のスキルはもっと成長するってことなのか?


「そして──遠からず出会うでしょう。神のスキルを持つ者同士は運命で引かれあいますから」


「出会うって、俺と同じようなスキルを持っている奴らに……?」


 こくん、とうなずく女神さま。


「そのときは友になるもよし、敵になるもよし」


 ……敵には、なりたくないな。


「そして、関わらないのもまたよし──神は関知しません。それがルールです」


「ルール……?」


「あなたに幸あらんことを、ハルト・リーヴァ」


 その声を最後に、白い空間は消え失せた。




 気が付けば、俺はギルド支部の中にいた。


 さっきのは白昼夢だったのか、それとも意識の中で起きた一瞬の出来事なのか。

 どちらとも判別つかないまま、俺は受付に歩き出す。


 今日は、新しい依頼仕事を探すためにここまで来たのだ。

 と、


「あ、ハルト。こっちこっち」


 受付に向かう途中で声をかけられた。

 振り返ると、金髪ツインテールと銀髪ボブの美少女姉妹──リリスとアリスが立っている。


 さらにもう一人──見知らぬ女の子も一緒だ。


 あどけない容姿。

 銀色のロングヘア。

 宝石みたいに赤く、つぶらな瞳。

 身に着けているのは、黒いゴスロリドレスだった。


「そういえば初対面よね。彼女はメリエル・ブラウニー。今回の審査で冒険者になったの。メリエル、彼はハルト・リーヴァ。あたしたちと何度か一緒に戦った冒険者よ」


「初めまして。メリエル・ブラウニーと申します」


 スカートの裾をつまみ、古風な礼をメリエル。

 リリスやアリスとはタイプが違う美少女で、どこか人形を連想させる無機質な雰囲気にゴスロリ衣装がよく似合っていた。


「ハルト・リーヴァです。よろしく」


「ちょうどよかった。あたしと姉さんはメリエルと一緒にダンジョン探索系の依頼を受けるつもりなの。ランクBでフリーの依頼なんだけど、ハルトも一緒にどう?」


 と、リリス。


「あなたの力ならランクBの難易度でも問題ないと思う」


 新しい依頼仕事を探す手間が省けるし、いいかもしれないな。


「メリエルさんはまだ冒険者になったばかりですし、私たちはサポート代わりに。これも何かの縁ですし、彼女のランクアップのために協力できれば、と思いまして~」


 二人とも親切だなぁ。


「じゃあ、俺も手伝うよ」


「ありがとうございます、みなさま」


 メリエルはスカートの端をつまみ、優雅な礼をする。


「ハルトとメリエルは初対面だし、親睦を深めるためにも、みんなでご飯に行かない?」


 リリスの提案で、俺たちは四人で夕食を取ることになった。

 支部の建物を出て、大通りを進む。


「ハルトと食事なんて久しぶりだね」


「ここ一ヶ月は依頼をけっこうがんばったからな。リリスやアリスともほとんど会う機会がなかったし」


「今日はゆっくり話せるね、えへへ」


 隣を歩くリリスがにっこりとした笑顔を向ける。


「随分と嬉しそうですね、リリスさん」


 メリエルが俺たちを見た。


「お二人は恋人同士と呼ばれる関係ですの?」


「こ、ここここここここここ恋人っ!?」


 リリスが異様に甲高い声で叫んだ。


「顔がにやけてますもの」


「えっ、嘘、あたし、そんな顔してた?」


 確かに、にっこりというか、にやけた笑顔になってる。


「ハルトさんとお話しできるのがよほどうれしいのかと」


「やややややややだな、あたし、そんな、だって、まだ、えっと、だから」


 メリエルの追及に、リリスは明らかにうろたえていた。


「リリスちゃん、動揺しすぎです~」


 アリスがくすくすと笑う。


「??? 今のは動揺するような会話だったのですか? ……人間の恋心とやらは、今一つよく分かりませんわね」


「えっ」


「あ、いえ、なんでもありませんわ、おほほほほ」


 よく分からないことをつぶやいたメリエルは、何かを誤魔化すように微笑んだ。


「それはそうと……最近、王都で通り魔事件が急増しているそうですね」


 アリスが話題を変える。


「通り魔事件?」


「少し前は、王都近くのマイルズシティで通り魔事件が多発したとか。冒険者ギルドでそんな噂を聞きました」


「あたしも聞いたよ、その話。物騒だし、お互い気を付けましょ」


 と、リリス。


「王都の自警団も見回りを強化しているそうだけど、成果は上がらないみたい。犯人が神出鬼没らしくて手がかりすらつかめないとか」


「神出鬼没の通り魔か……」


 確かに物騒だ。


 魔族や魔獣は確かに脅威だけれど、世界の脅威はそれだけじゃない。

 むしろ、身近だからこそ人間の方が恐ろしいって考え方もあるよな。




 その後、俺は夕食でリリスやアリスと久しぶりにゆっくり話すことができた。


 メリエルも、話しやすくて感じのいい女の子だった。


 冒険者になる前の俺だったら、これだけの美少女と初対面でロクに離せなかったかもしれない。

 その辺はリリスやアリスと出会って、多少は慣れたのかもしれないな。


 リア充生活ってほどじゃないにせよ、彼女たちやサロメ、ルカといった女の子たちと知り合うようになったおかげで──。


 そして、翌日。

 俺はリリス、アリス、メリエルとともにダンジョン探索に挑んだ。

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