11 「ようこそ」

 あれから二日。

 王都に戻った俺は、延期になっていたギルドの入会審査が終わるのを待っていた。


 で、その結果──無事に合格。

 俺は冒険者として正式に認められた。


 ギルドの規則によって、新人は一律で最下級のランクEからスタートだ。


 冒険者はS~Eの六つのランクに分かれていて、ランクごとに受けられる依頼や報酬が異なる。

 そういった依頼をこなし、実績を積んでいくことでランクアップしていくんだとか。


 で、今日はギルドでの入会手続きがあるってことで、俺は朝から支部を訪れていた。


「無事に審査を通ったみたいね」


 入り口のところで待っていたのはルカだ。

 今日は騎士鎧姿じゃなく、町娘が着るような服装だった。


「おめでとう、ハルト」


「ああ、ありがとう。体は大丈夫なのか?」


 ルカは、ガイラスヴリムとの戦いでかなりのダメージを負ったはずだ。

 ただ、見たところ元気そうだし、傷痕なんかもまったく見当たらない。


「傷は治癒魔法ですっかり元通りよ。ただ体力が戻るにはもう少し時間がかかるわ」


 確かに、よく見ると顔色があまりよくない。


「因子の力を使い過ぎたことによる消耗は、治癒魔法では治せないから……」


 言ったところで、ふいにルカがよろめいた。


「ルカ!」


 倒れそうになった彼女を、俺は慌てて支えた。


 正面から抱き留めるような格好になってしまった。


 あれほどの戦闘力を誇る少女騎士も、こうして俺の両腕の中にすっぽり収まっている体は、思った以上に小柄だ。

 こんな小さな体で、魔将と渡り合ったんだな──。


「……もう支えてもらわなくても大丈夫」


「あ、ああ、ごめん」


 気恥ずかしくなって、俺はルカの体を離した。


「いえ、ありがとう……」


 彼女の方も、顔が少し赤い。


「……もう一つ、お礼を言いそびれてた」


「ん?」


「ありがとう。助けてくれて」


 ルカが俺を見つめる。


「魔将との戦いで……あなたが来なければ、私は殺されていたから」


「無事でよかったよ」


「いずれ返すわ。必ず」


 にっこりほほ笑む俺に、ルカは凛と告げた。


「今度は私があなたを助ける」




 入会手続きは一階の受付でやるって話だ。


 ルカと別れてそこへ向かう途中、今度はサロメに出会った。


「冒険者になったんだって? おめでとー」


 にっこりと陽気な笑みを浮かべて、俺に手を振るサロメ。


 魔将との戦いで見せた、あの酷薄な表情は欠片もない。

 やっぱり、こっちのサロメの方がいいな。うん。


「あれだけ活躍したんだし、一気にランクAくらいにしてくれてもいいのにね」


「まあ、最初は最下級からスタートって規則らしいし」


「ギルドはなんでも規則規則なんだよね、むー」


 サロメは不満げに唇を尖らせた。


「あ、そうだ。今度ハルトくんのお祝いやろうよ。リリスやアリス、ルカも呼んでもいい? みんなで美味しいもの食べよ。っていうか、美味しいもの食べよ? 美味しいもの食べよ? ね?」


 なんで『美味しいもの食べよ』を三回も言うんだ。強調しすぎだろ。


「じゅるる……」


「よだれ垂れてるぞ」


「はっ!? べ、別に、ハルトくんのお祝いって口実で美食を楽しみたいとか、あわよくば奢ってもらいたいとか、そんなこと考えてないしっ。全然考えてないしっ」


 考えてたよな、絶対……。


「──と、まあ冗談はこれくらいで」


「どう見ても冗談じゃなかったけど」


「ハルトくんにお祝いを言いたかっただけだから。ボクはそろそろ行くね」


 俺のツッコミをスルーして、サロメはにっこり笑った。


「アギーレシティの人たちのお墓参りに」


「墓参り……?」


「数日だったけど、仲良くしてた人もいるからね」


 その横顔に寂しげな陰がよぎる。


「サロメ……」


「そうだ、リリスとアリスが向こうにいたから、後で声かけたら? 審査で色々と世話になってるでしょ」


「ああ、二人を探してたんだよ。ありがとう」


「またね、ハルトくん。あ、お祝いの話、ちゃんとリリスたちやルカにも声かけておいてよね」


 サロメは元の笑顔に戻ると、ぱちんとウインクをして去っていった。




 その後も冒険者になるための申請書類やら仕事や報酬の説明やら、色々と事務的なことをこなした。


 最後に、冒険者の証としてギルドカードっていうのをもらった。

 魔法技術が組みこまれた結構な高級品で、これ一枚で身分証や俺の実績の記録などいろいろなことができる便利アイテムらしい。


 町から町へ移動するための魔導馬車の料金も、これがあると割引になるとか。

 任務で遠出するときにも重宝するな、うん。


 で、全部終わったときには夕方になっていた。


「ふう、やっと解放された」


 ギルド支部の建物から出た俺は、大きく伸びをする。


 とにかく、説明説明また説明って感じで肩が凝った、というのが正直な感想だ。

 まあ、仕事に就くってのはこういうことなのかもしれない。

 と、


「お疲れさま、ハルト」


「冒険者の審査に通った後は大変ですよね」


 リリスとアリスが歩み寄ってきた。


 手続き前に一度会ったんだけど、その後も待っててくれたらしい。

 付き合いがいいよな、二人とも。


「あたしたちのときも初日は説明とか書類を書かされてばっかりで、すごく時間がかかったのよ」


「そうそう、リリスちゃんなんて途中から寝てましたし」


「ね、寝てないよっ! 説明はちゃんと聞いて……なかったところもなくもなくもないけど……まあ……」


 ごにょごにょと決まり悪そうに口ごもるリリス。


 正直、俺も説明の途中で少し寝てしまったから、気持ちはよく分かる。


「わざわざ待っててくれたのか。悪かったな。それと、二人ともありがとう」


 二人に礼を言う。


「あたしたちは町中に用事があって、終わってからもう一度立ち寄っただけよ」


「ふふ、用事はすぐ終わったので、実際は半日くらい待ってたんですけどね。リリスちゃんがどうしてもハルトさんをお祝いしたいって」


「ち、ちょっと、姉さん、言わないでよっ」


 リリスが真っ赤になった。


「えっと、その、あらためて──合格おめでとう、ハルト」


 はにかみながら、リリスがにっこりと微笑んだ。


「おめでとうございます、ハルトさん」


 その隣でアリスも嬉しそうな顔だ。


 夕日を浴びた彼女たちの笑顔は、本当に可憐で、綺麗で──。

 見つめているだけで、胸が甘く疼く。


「ようこそ、冒険者の世界へ」


 リリスが右手を差し出した。


「冒険者……か」


 そう、俺はもうその世界に踏みこんだんだ。


「俺……これからは、もっとたくさんの人を守るよ。守れるようになる」


 半ば自分に、半ばはこの世界に俺を誘ってくれた二人に誓うように──告げて、リリスの手を取った。


 柔らかくて、温かな彼女の感触。


 さらにアリスがその上から手を重ね、


「これからもよろしくお願いしますね」


「お互いにがんばりましょ」


 微笑む二人に、俺は力強くうなずいた。

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