第159話 ときめき(2)

と、


言いつつ。


「なに、あんた。 そんな体で明日、加瀬のトコいくつもりなの?」


家に戻ってきた南は心配で高宮の部屋を訪れた。


「な…」


南がもうそのことを知っていることに驚いてしまった。


「あんまり焦ったらアカンで。 アレ、ほんま中学生やから。」


「はあ??」


「恋愛に関しては中学生ってこと。 まだまだ中学生と恋愛してる気持ちで接しないと。 いきなり押し倒したりしたらアカン。」


すっごい


大真面目に言われると


恥ずかしいんですけど。


高宮は彼女から目をそらした。


「べ、別にね! 何しようってたくらんでるわけじゃないですよ! 」


「まあなあ・・このギブスじゃ。 やりたくても、できないよね。」


南はウンウンと頷いた。


「だ!! だから! 別に考えてないって言ってるでしょ!」



何もかも見透かしたように


言いやがって!


疚しいキモチなんか


なんか


・・・ないけど?




「正月過ぎたら、また、3ヶ月は大阪ですから・・」


高宮はわざとそっぽを向いて小さな声でそう言った。


こっちも


カワイイなァ


南はもうこの二人がかわいくってどうしようもなくなっていた。



翌日の夕方6時ごろ、彼はやってきた。


「ど、どうぞ。」


夏希は少しドキドキしながら彼を部屋に入れた。


「おじゃま、します。」


この前、成り行きでこの部屋に来たが、こうして改まって彼を招くのも気恥ずかしい。


「ゴハン、作ったんですけど? 食べませんか?」


「え? ホント? なんかおれハラ減って・・」


と言ったとたん、高宮は忌まわしい過去を思い出す。


「ほんとですかあ? カレーなんですけど! ちょっと冒険しちゃいましたァ~。」


夏希は嬉しそうに言う。


「冒険…」


高宮は絶句した。




「これは・・」


「ジャーン! 丸ごとトマトと冬瓜のカレーです!!」


目の前に出された代物は。


確かにカレーなのだが、じゃがいもや肉よりも、ものすごい存在感の1個まるごとのトマトと、とうがん??


「加瀬さんは・・トマトが好きなんだね、」


ひきつりながら言うと、


「そうなんです! もういつも冷蔵庫にトマトは常備してあって。 朝、何も食べたくないときもつめた~く冷やしたトマトなら食べれるし。 ウチの実家から送ってくるトマトが美味しくて!」


「しかし・・何故、とうがん? ていうか、とうがんってなに?」


「ああ。 ほんとは冬が旬の野菜じゃないんですけど。 たまたまこの前お母さんが送ってくれて。 鶏肉なんかと一緒に煮ると美味しいんですけど、ちょっとそれは難しいんで。 カレーにしちゃいました。」



しちゃいました・・って。


「どうぞ!」


満面の笑みで勧められて、おそるおそるカレーを口に運んだ。


もぐもぐと口を動かす彼に、心配そうに


「どうですか?」


夏希は顔を覗き込む。


「うん・・うまい、かも。」


トマトの酸味と甘さがカレーに合ってる。


でも、別々に食べたほうがうまいかも・・


そう思ったが言わなかった。


そして冬瓜を口にしてみた。


「・・・」


今まで冬瓜を食べたことがなかった高宮は初めての食感に無言になってしまった。


「だ、ダメですか?」


何も言わない彼に夏希は心配そうに言う。


「ダメってわけじゃないけど・・」



なんちゅーか


それ自体の味はあんまりしないけど、この何とも言えない食感が。


しかも、カレーとはうらはらな水っぽさ。


なんでカレーに入れたんだろ。



色んなことが頭を駆け巡る。




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