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第130話 あいたい(1)

夏希は胸がドキドキして、気持ちが溢れてくるのがわかった。


「あ…」



何かを言おうとしたら、


一緒に涙が出てきた。



「加瀬さんは、おれに戻ってきて欲しい?」


高宮は自分の気持ちを決めたくて


そんな言葉が自然に出てしまった。


「・・も、戻ってきて欲しいですよ・・」


涙声だったので驚いた。


「ていうか! また高宮さんが帰ってきて、一緒にゴハンに行ったり、サーフィンしたり…そんなこと当たり前にできるって思ってましたから。 高宮さんが、帰ってこないだなんて、想像もしてませんでしたから!」


「加瀬さん、」


夏希はもう


胸の鼓動が急速に速くなって。


この気持ちを


どう表していいのか


どう整理していいのか


全くわからなくなっていた。



夏希は取り乱してしまった。


「あたしは・・高宮さんに戻ってきて欲しいですけど! でも、大阪の人たちが・・困ってしまうなんて。 高宮さんの気持ちも、わかるし!」


泣きながら支離滅裂なことを言い出す彼女に、高宮のほうが正気に戻ってしまった。



「か、加瀬さん…」



「どっ、どーしていいか・・わかんない・・」


って


おれのセリフなのに。


なんて思いながらも、


「おれだって帰りたい。 何よりもきみのいるところに帰りたいよ、」


夏希に素直な気持ちをぶつけた。


「え、」


「きみに、会いたいんだ。」


夏希はその言葉だけが。


ずっと頭の中を駆け巡った。




ぼんやりとテーブルに頭をくっつけて時間をやり過ごしてしまった。


電話を切ってから


どのくらいの時間が経ったのかも、定かではなかった。


もう、


ずっと会えなくなっちゃうの?


高宮さんと。



やだ


そんなの


絶対に、やだ!



よくもこんなに


枯れもせずに涙が出てくるもんだと、感心しながら。


ぶるっと寒気がして目が覚めた。


あのまま眠ってしまったらしかった。



気がついたら、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んできていた。


さむ・・。


夏希はガビガビになった顔を手で拭った。


気を抜いたら


また、涙が出てきそうだった。



クリスマスは毎年恒例の北都マサヒロのクリスマスライヴが行われることになっていて、事業部も大忙しだった。


「栗栖さん、これはこっちでいいんですか。」


翌日に本番を控えて、夏希はホールに行って準備をしていた。


「うん、そこで。」


朝からずっと寒気がして喉が死ぬほど痛い。


「加瀬さん、なんか声が枯れてるんじゃない?」


萌香がそれに気づいて言うと、


「いえ、だいじょぶですから。」


夏希は笑顔で取り繕った。



あたしは


やっぱり


あの人に会いたい。



頭の中は


高宮のことでいっぱいで。

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