第118話 愛って(4)

実際に


大阪に来て1ヶ月。


夢中で仕事をこなしてきたけれど。



ふと周囲のことが気になり始めると、


いろんなことが東京とは違っていて、その空気の中にいるだけで疲れてしまうこともある。


何が、


ということはないのだが。



父親の地盤は長野だけど


生まれてから東京とNYしか知らなくて。



大阪は


今まで生きてきて初めて暮らすタイプの場所だった。


正直


NYに行ったときのほうが違和感がなかった、というくらい。



それに気づきたくなくて、仕事で頭をいっぱいにしたかった。




東京へ帰りたいんじゃなくて


彼女と離れていることが


だんだんと寂しくなっているのだった。


時間が過ぎていくのを感じないように


毎日を黙々と過ごして行った。




「水谷さん、こっちが先だよ。 仕事の優先順位を考えて。」


「あ、はい、すみません。」


理沙は少し落ち着きを取り戻したが、まだまだ秘書としては半人前でつい心配になってつきっきりになってしまう。


この日も休みだったが二人で出勤していた。



「あの、これ。」


昼に近づき、彼女が遠慮がちにランチボックスを差し出した。



「え?」



「お弁当を、作ってきました。よかったら、」



「・・ありがとう、」


と受け取ってもらえると彼女は嬉しそうに笑った。





そのお弁当はまるで春のように華やかでキレイに詰め込まれていて。



「これ、水谷さんが作ったの?」



「え、そうですけど・・・」



「すごいね。 なんか買ってきたお弁当みたい、」



「そんなこと。 私一人暮らしなので、ちょっとお給料前とか苦しくなるとお昼はお弁当を作ってもってきたりします。」


恥ずかしそうに笑う。




そしてそれを一口食べてみる。



「どう、ですか?」




心配そうに高宮の顔を覗き込む理沙に、


「うん、うまい。 すっごいうまいよ。」


笑いかけた。



「よかったあ・・・」


理沙は安心したように自分用に作ってきた同じお弁当を口にした。



そのキレイでおいしいお弁当を食べていたら


なぜだか


あの


『バナナがゆ』を思い出してしまった。




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