第103話 お仕事(2)
『北都エンターテイメント株式会社 クラシック事業本部 加瀬夏希』
はあああああ。
名刺だァ…。
夏希は何度見てもうっとりしてしまった。
絵梨沙のマネージャー的仕事をさせてもらえることになって、名刺を作ってもらえたのだった。
お母さんに送って自慢しよう。
そう思ったとき、
そうだ。
携帯を取り出してその名刺をパシャっと撮った。
「ん?」
昼休みのがらんとした部署で、高宮は携帯の着信が聞こえて取り出した。
『名刺です!』
のタイトルの夏希からのメールだった。
『・・と言うわけで、北都マサヒロさんの奥さんの沢藤絵梨沙さんのお世話をさせていただくことになりました。そうしたら、栗栖さんが必要だからって総務に名刺を頼んでくださって。 生まれて初めての名刺に興奮しています!』
名刺の画像と共に、そんな文面が送られてきた。
本当に彼女の喜びが伝わってくるようで。
高宮は携帯を片手に思わずふっと笑ってしまった。
そこに
「あのっ。」
突然声をかけられて、
「わっ!」
高宮は慌てて携帯を隠した。
「す、すみません。 さっきの書類のことなんですが、」
支社長秘書の水谷理沙だった。
「あ・・う、うん。」
ここへ来て早いものでもう2週間が経とうとしている。
とにかく、未決の事項がたくさんあってそれを支社長代理に渡す前に振り分ける仕事が大変で。
彼女と二人、毎日夜9時過ぎまでかかってその作業をしていた。
彼女はそのくらいの時間で帰すが、高宮はさらにその後深夜まで仕事を続けていた。
「お疲れではないですか、」
理沙は遠慮がちにそう言う。
「ん。疲れてないって言ったらウソになるけど。 でも、そうも言ってられないし。 どんどん片付けていかないと。」
「私一人で本当に途方に暮れてしまって・・」
大阪支社は東京本社よりも三分の一ほどの規模で、秘書課もなく総務部と一緒になっていて秘書の仕事をしているのはこの理沙を含めて女性が3人だけだった。
まだ入社2年目の彼女は突然、支社長に倒れられ、その対応でパニックに陥っていたようだった。
高宮が東京からやってきてから、彼があまりの速さで仕事を片付けていくのをただボーっと見ているだけで。
「きみも大変だっただろう?」
書類を見ながら理沙に話しかけると、
「え・・」
小柄でおとなしくて頼りなげな彼女は顔を上げた。
「こっちは総務部と一緒だし。 なんで秘書なのにこんな細かいことまでしないといけないの?ってことまでしなくちゃ、だし。 少し総務にやってもらったほうがいいよ。」
「でも、今まではそうやったって・・言われると、」
「こんな経費の伝票書いたりなんて、総務の仕事だよ。 それに、いちいちすっごい細かいことまで支社長の判がいるなんておかしいし。 なんでトイレットペーパーを買うのに支社長に許可を得ないといけないの。」
「はあ…」
「なんてことをきみに言っても仕方ないんだけど。 あんまりバカバカしいのでさっき総務部長に言っておきました。」
高宮はタバコに火をつけた。
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