第102話 お仕事(1)

「えっ! あたしが、沢藤絵梨沙さんのマネージャーを!?」

驚いた。


「マネージャーはオーバーだけど。 彼女、今月テレビの収録の仕事や雑誌の仕事がいくつかあって。 みんな今めっちゃ忙しいから、ついていかれないし。 おまえは、車の運転はできるの?」


「も、任せてください! 大学4年の夏に合宿免許で取りましたから! 得意は縦列駐車です!」

鼻息も荒く胸を張った。


「縦列駐車はどうでもいいんだけどさ。 都内、運転できる?」


「前に宅配便のバイトもしてましたから。 今、車停めるところうるさいじゃないですかあ? あたし、けっこう隙間見て停めるの得意だったんですよ!」


「だから、停めるのはどうでもいいからさ。 ま、マネージャーつってもおまえはついていくだけでいいから。 あとの仕事は教えるから。」

斯波はそう言いながらも、


果たして大丈夫だろうか?


そんな不安でいっぱいだった。


しかし、夏希は入社して初めて仰せつかった大きな仕事に、

「も! がんばります! いつもの実力の100%を出し切って!」

ますます張り切った。


「いつも100%の力を出せよ…」

斯波はぼやくようにつっこんだ。



「はあ? 加瀬に!?」

志藤は怖い顔で斯波を見上げた。


「他にいなかったんで…」


「おれがいるやろ!」


「はあ???」


「エリちゃんの付き人ならおれがいるやんて!」

声を大にして言う彼に、


「あなたは取締役でしょう。 タレントのマネージャーしてどうするんですか。」

大きなため息をついた。


「ほんまにもう。エリちゃんのことになると見境ないなあ。」

南も呆れた。


「彼女はおれの天使や・・」

志藤は夢見るような顔でそう言った。


「また始まった。」



夏希は不安そうに寄って来て、

「あたし、なんかまずかったんでしょうか?」

南に言うと、


「ああ・・いいのいいの。 もう病気、やから。」

と呆れる南をよそに、


「彼女とウチが契約したてのころ。まだ、二十歳にもならないころで。 ほんっと、もう震えるほど美しかったなあ。 女神が光臨してきた、みたいな?」

志藤は入り込んできた。


「ウチと契約したのだって、結局、真尋からの紹介やったんやん。」

南の冷静なつっこみに、


「そうなんですか?」

夏希の問いかけた。


「あの二人、留学先のウイーンで知り合って、学生時代からずうっとつきあってたの。 んで、エリちゃんが在学中に出たウイーンのコンクールで日本人初の優勝をしてしまって。 それでいろいろ仕事が入るようになってな。そういうのマネジメントしてくれるトコ彼女が探してたから。 んじゃ契約しよかーって。」

南は説明をした。


「ほんっと。最初はもう沢藤絵梨沙に比べたら北都マサヒロなんかヘにもならないくらいの存在やったのにな。」

志藤は少し寂しそうにそう言った。


「もうええやん。 今、エリちゃんは幸せなんやから。」


志藤は夏希をジロっと睨んで、


「おまえ、エリちゃんに何かあったら体張って助けろよ!」

と言い放った。


「ボディガードもですか・・」


夏希はあまりに真剣な志藤に反論もできず…。

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