第83話 現実(3)
夏希は昨日からずっと気持ちが重かった。
なんなんだろう
この心のモヤモヤは。
あたしらしくない。
ぜんっぜん。
秘書課から志藤が出てきて、廊下でバッタリ会った。
「あ、おはようございます、」
「おう。 ああ、高宮がね、なんか今日と明日、休むとか言うてるで。」
「は…」
「また腹痛?って聞いたら、今回は違うって。 声は元気そうやったけど。」
「そう、ですか。」
どうしたんだろう。
少し気になった。
病気でもないのに2日も休むなんて。
昼休み、彼の携帯を鳴らすが通じなかった。
その後も何度か電話をしてみたが同じだった。
何か
あったんだろうか。
夏希は言い表すことができない心配で、胸がいっぱいだった。
翌日もやはり彼は休んだので、どうしても気になり彼のマンションまで行ってみた。
インターホンを鳴らしたが、留守だった。
帰ることもできずそこでウロウロしていると、
「加瀬さん?」
高宮が戻ってきた。
「高宮さん、」
「どうしたの?」
「どうしたのって。なんか2日もお休みして。電話も通じなかったんで、」
正直に言うと、
「心配してくれたの?」
彼の顔がほころぶ。
「そりゃ…」
夏希は自分のこの気持ちをどう説明していいのかもわからなかった。
そこに、
「隆之介!」
女性の大きな声が聞こえて驚いて二人は同時に振り向いた。
道路わきに停めた車から背の高い女性が慌てた様子でやって来た。
だれ?
きれいな人…。
夏希がそんな風に思っていると、
「・・オフクロ、」
高宮の言葉に
「えっ、」
驚いて彼とその女性を見比べてしまった。
「もう! ぜんぜん、連絡取れないし! さっき帰ったらお手伝いさんがこれをあなたが置いていったって言うし、」
茶封筒を見せる。
「ああ。おれ、ここ出て行くから。 引っ越す。」
「は?」
「あと車も返すから。 権利書、入ってたでしょ?」
「だから! どうして急に!」
取り乱す母に高宮は冷静に、
「おれを勘当してください。」
と言い放った。
「城ヶ崎さんから聞いたよ。 恵との縁談の話。」
「えっ、」
母は少し驚いたように言う。
「彼を婿に取ろうと思っている話。 おれは恵さえよければいいと思う。」
「隆之介、」
2日前。
やって来たその男は
城ヶ崎良。
父の第一秘書で、15年もずっと父のそばで仕事をしてきた男だった。
もちろん自分や妹の恵とも昔から顔見知りで、温厚で頭のいい人だった。
「恵さんと一緒になることにはもちろん何の不満もなく。 先生のお嬢さんと言うことは置いておいても、彼女と一緒になれればと思っていたのは事実です。 でも、先生が結婚に条件があるといいました。」
城ヶ崎は高宮を見た。
「え、」
「ぼくが高宮の婿になる、というのが条件です。 おそらくあなたが先生の地盤を継いで選挙に出ない、と言うことになった時の保険のためだと思いますが、」
複雑そうにそう言った。
「・・・」
高宮は一瞬にして色んなことを考えた。
「おれよりもあなたが継いだほうがいい。 恵が幸せになるんだったら。 それでいい。」
しばらく考えた後、そう言った。
「しかし! 実の息子さんであるあなたがいるのに、そんなことは!」
「いや。 むしろ、そうして欲しい。」
きっぱりとした気持ちだった。
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