第82話 現実(2)
「あ、そうだ。 コレ。」
高宮は小さな箱を夏希に差し出した。
「え・・」
「誕生日のプレゼント。 開けてみて」
彼の言うままに開けると、
「わ、かわいい!」
夏希は思わず声を上げてしまった。
3cmほどの小さなクリスタルのテデイベアだった。
「きれ~~、」
夏希は胸がぎゅっとわしづかみされたような気持ちだった。
「スワロフスキーだから。」
…って言われてもなんのことやらなんだけど。
「なんか高級そうで・・」
「ううん、そんなこともないよ。」
「あたし、キラキラしてるものが好きだから。 はああ、ほんっとカワイイ。」
テーブルの上に置くと、光が当たってそれを通して虹色がそこにきらめく。
「なんだかあたし、高宮さんにいつもごちそうになってばっかりだし。その上、こんな・・」
さすがに申し訳なくなってくる。
「おれはいつも加瀬さんから元気を貰ってるんだ。 きみがいると落ち着くし、楽しい。 いつも笑っていられる。 そんな自分がいたんだって驚くくらい。」
「そ、そんなこと。 あたしは本当にバカな話をしてるだけで・・」
恥ずかしくて顔を赤らめた。
「ほんと感謝してるんだ。」
高宮の言葉に夏希はすごく戸惑った。
「高宮さん・・」
「ま、いいじゃない。 すっごく美味しそうだよ。 食べよう、」
話をそらすように彼はそう言って笑った。
今日は
なんだか疲れた…。
夏希は部屋に戻り、座り込んでしまった。
やっぱり
彼が遠くの国に住む人だって
思い知ってしまったかのように。
テレビを点けると、
『内閣改造で幹事長就任が確実視されている元財務大臣の高宮政則氏は、この日の会合で…』
アナウンサーの無機質な声が聞こえて、思わずハッとして画面を見る。
この人が。
テレビに映し出される”その人”は
やっぱり遠い国の人のように。
すっごい立派な人だなあ。
日本、動かしてるようなもんだもんね。
そっくり
高宮さんに。
この人が彼と間違いなく親子であることを
またも
思い知らされた。
高宮がマンションに戻っていくと、エントランスに男の人影を見た。
「隆之介さん、」
彼に気づいたその男は歩み寄る。
「・・城ヶ崎さん、」
「ごぶさたしています、なかなかお会いできなくて、」
と頭を下げられた。
「どうしたんですか、こんなところで待ったりして、」
その男の出現が
高宮の身辺を大きく動かそうとしていた。
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