第80話 夏休み(4)
そんなことを噂されているとはつゆ知らず。
夏希は実家でのんびりと過ごしていた。
父の墓参りも済ませ、後輩の練習を手伝いに行ったり、友達と海や花火大会を見に行ったり。
「社会人になってもやってること同じだね~。」
母は笑った。
「いいじゃん、別に、」
とスイカを頬張る。
「会社のほうはどうなの?」
「うん、楽しいよ。 大変だけど、みんないい人たちだし、」
「ちゃんと身の回りのことはやってるの?」
「だいたいやってるよ・・」
「あ、そうだ。 小学校の時一緒だった、ユリちゃんね、結婚するんだって。」
「えー? ほんと? はやーい。」
「なんかできちゃった婚みたいよ、」
「ほんとに? ユリちゃんが?」
「あんなに真面目な子だったのにね~。 相手だってまだ同じくらいの年みたいだよ。」
「そっかあ、」
「あんたはそんなことにならないでよね、」
「え! そんなのなるわけないじゃん!」
スイカの種をぷっと飛ばした。
「今までは女の子ばっかりの中だったからさあ。いきなり芸能社なんか入って生活も派手になりそうだし、」
「も、ぜんっぜん、地味だって。」
夏希は笑い飛ばした。
「ま、あんたは分相応の人と一緒になってくれればいいからさ、」
母も笑った。
なぜだか
その言葉に夏希は高宮のことを思い出してしまった。
しかし、考えてしまったことが非常に恥ずかしく、すぐに打ち消した。
「じゃあ、東京の人でもいいの?」
「あ、もうぜんぜんいいよ。 そしたらお母さんも老後は東京に行くから!」
ほんと自分と同じようにどこまでも明るくて、楽天家の母で。
父親が亡くなっても、大変だとか、つらいだとか
そんな弱音を一度も聞いたことがない。
いつもケンカばかりしてるけど。
学校も卒業して、仕事もするようになってこれから少しは親孝行もできるかなあって
ちょっとは思ったり。
「あ、夏希が買ってくれた4Kテレビ! 近所の人もしょっちゅう見に来て! いいね~って、」
「だから買ってあげたわけじゃないじゃん、」
ホントにこの母は。
こ、これは…
高宮は宅配で届いた荷物を開けて驚いた。
たくさんのトマトと、桃のアイスクリームが。
こんなに?
ちょっと途方に暮れる量だった。
「あ、高宮さん? 着きましたあ?」
夏希の元気な声が聞こえる。
「あんなにありがと。 おいしそうなトマトとアイスクリームだね、」
「ほんっとに美味しいんですって! 特にトマトはね~。 冷蔵庫でめちゃめちゃ冷やしておいて、朝、食べるんですよ! も、これがサイコーで。 高宮さんはお料理しないでしょうけど、これなら切るだけで食べれるし、」
「・・ん、」
テーブルの上の真っ赤なトマトをそっと撫でた。
「あ、あとね! トマトを切って、お砂糖とポン酢醤油に漬けて食べると、めっちゃ美味しいんですよ! あんまり甘くないトマトでもすっごく甘くなって美味しいんですよ~~!!」
彼女の言葉に、
「は・・ポン酢醤油???」
思いもがけない言葉で絶句した。
「騙されたと思ってやってみてください、」
自信満々に言う彼女に、あの”バナナがゆ"の恐怖を思い出し、ちょっとだけ寒気がした。
「そっちは楽しい?」
立て直してそう聞くと、
「ええ、まあ。 久しぶりの友達と会ったりして、」
「そう、」
「明日の昼ごろこっちでて帰ります、」
その言葉が
何よりも嬉しくて
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