第68話 噂(3)

「だって。 誘ってやったら?」

南はそのまんまを高宮に伝えてやった。


「…でも、」

消極的な彼に、


「チャンスやん。ここは一発、男らしくさあ、おれは何も気にしてないぞ!って、 堂々と加瀬を誘うぞ!みたいな。」


「はあ、」


「はあって・・原因はあんたやろ?」


そうなんですけどね・・。


高宮は景気よく彼女に背中を叩かれて、


「・・うん、」

一応、うなずいた。



夕方近く

夏希のデスクの内線電話が鳴った。


「はい、加瀬です。」


「あ、高宮だけど、」


「ああ、どうしたんですか?」


「今度の日曜・・やっぱり海に行かない?」


「え…」


「サーフグッズ、買っちゃったんだろ?」


「・・南さんですね。 もう、おしゃべりだなあ、」

ふっと笑った。


「せっかくだから、行こうよ、」


「お店の人がね、すっごく親切で。いろんなこと説明してくれちゃって。 あ~、このお店にしてよかった~って言ったら、セールでもないのに10%もまけてくれちゃったんですよ。」


「じゃあ、うまくならないとね。」


「でも・・いいんですか?」


夏希はつぶやくように言った。


「え、・・どうして?」


「なんか、」



やっぱりためらわれた。


「おれは加瀬さんと行きたいんだ、」


高宮はきっぱりとそう言った。



その言葉に

夏希は胸がドキンとして思わず押さえた。


「ダメ・・?」


あれ?

なんだろ。


スピッツまでとはいかないけど

ハムスターくらいの生き物が

胸の中にいる。


そう思ったら、



「いえ。お願いします、」

素直にそう答えていた。


高宮もその返事にほっとして、思わず笑顔になった。




「おっはよーございまーす!」


彼女は晴れ渡る天気のように、元気にやって来た。

少し伸びた髪をポニーテールにして、チビTに膝丈のジーンズが長い脚に良く似合う。


「あれっ、車・・」

この前の彼の車とは違う。


4WDのルーフにボードキャリーがついたものだった。


「うん、借りちゃった。 あの車じゃボード乗せられないし。」


「え! あたしのボードのためにわざわざ借りたんですか!」

夏希は驚いた。


「ウン、」

当然という風に高宮はうなずいた。


「いいからいいから。 乗っけて。」



やっぱ

お金持ちってお金の遣い方が違うなあ。


ヘンなところに感心してしまった。



この前と同じ海岸に行くと、

「あれ? この前のお姉ちゃんじゃない。 また来たの?」

常連らしきおじさんサーファーから声をかけられた。


「はい! なんかもうほんと、おもしろくなっちゃって! ボードも買っちゃいました!」

嬉しそうに新品のボードを見せる。


人懐っこい彼女はすぐに誰とでも友達になってしまう。

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