第62話 波跡(3)

「かわいそうなデートやったんやなあ。 高宮、」

志藤が笑うと、


「え? デート?」

夏希はきょとんとした。


「デートちゃうのん? 二人でサーフィンなんて。」

南も笑う。


「デートじゃないですよ・・」


夏希は昨日のことを思い出しながら言う。


「そういうのはデートって言うねんで、」


「だって! 確かに二人で行きましたけど。 ずうっとサーフィンしてて、そのあとゴハン食べただけで・・」


「立派なデートやんなあ、」

南は萌香に同意を求めた。


「まあ…」

萌香も苦笑いでうなずいた。


「えっ!」


夏希は固まってしまった。


そして、みるみる真っ赤になって、


「何も・・してないですよ、」


大真面目に言ったので、もうみんな笑うしかなった。


「妄想すな、妄想!」

志藤が彼女の頭の上を払う仕草をした。


「してません!」


「でも、高宮はあたしらが考えてたより、偉いな。めっちゃ加瀬のこと大事にしてるやん、」

南はうなずいた。


「ほんっと! そんなんじゃなくって!」

夏希はさらにうろたえた。


「まあまあ。 なんでもな。 楽しけりゃええやん、」

南は彼女の背中を叩く。



そうか

あれは『デート』って言うんだ。


でも! 高宮さん、何も言ってくれなかったし!


って・・普通は言わないか。


夏希は自分的プチパニックになっていた。


人生初めて

『デート』

といわれるものをしてしまった。



「だいじょぶか? アレ、」


みんなの輪が解けたあと、斯波は萌香にボソっと言った。


「え?」


「加瀬、」


「なにが、ですか?」


「中学生以下のレベルだろ、あれは。」


今の話をしているのだと気づき、

「まあ、それが彼女のいいところでもありますから。 南さんが言っていた通り、高宮さんてすっごく真面目な人なのかもしれませんね。」


「高宮って、いくつ?」


「私と同じみたいですけど、」


「28か。 果たして28の男があんな調子で満足しているのか??」


斯波があまりに真剣に考えているので、萌香はおかしくなって

「あなたが心配することじゃないでしょう? 大丈夫よ、」

と言ったが、


「なんっか…危なっかしいんだよな。」


ポツリとそう言った。


みんな

なんでそんなに騒ぐのかなあ。

楽しければいいのに。

デートじゃなくても。


夏希は昼休み、屋上に行き快晴の空を見上げた。


あたしは

高宮さんのこと

好きなのかな?


前に

斯波さんに感じてしまった気持ちとはちょっと違う気がする。

ドキドキするとか

そういうの

ないし。


やっぱり

あたしと高宮さんは住む世界が違うってどこかで思ってる。

あたしなんか

仕事だってそんなにできるわけでもなく

声が大きいくらいしかとりえがないし。

女としても欠けてるトコばっかだし。


高宮さんみたいな人があたしなんかに本気じゃないって

どっかで思ってる。


珍しい生き物って

感じなんだよね。

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