第25話 太陽(2)

八神は久しぶりに自分の席に着く。


「・・あれ??」

その異変にすぐに気づいた。


「ソードがないっ!」

いきなり叫びだした彼に、


「うるさいなあ、もう。 なに?」

南は迷惑そうに言う。


「がっ・・ガンダムの! こいつが持ってたソードが!」

一体のミニチュアのフィギュアを手に言った。


「知らないよ~。 そんなもん。 だいたいさあ、志藤ちゃんにデスクにこんなもん置くな!ってこの前怒られたばっかやん、」


「わ~~! どこ行った!」

あたりを探し始める。


夏希はドキンとした。


この前…。


八神のデスクを掃除していたら、本立ての上に乗せられたファイルが落ちてしまい、そのフィギュアを床に落としてしまった。


他にも外れてしまった箇所はあったが、何とか復旧して一安心していたところだった。


「あ、あのう・・」

夏希は申し訳なさそうに八神に声をかける。


「は?」


「1週間くらい前に・・ソレ、落としちゃって、」


「えっ!」

八神は顔を上げる。


「す、すみません。 直したつもりだったんですけど、」


「なにィ~~??」

八神の表情が一変した。


「さ、探したんですけど・・わかんなくって。てゆーか、何が足りないのかもよくわかんなくって・・」


「おまえ~~~! これはなあ、オマケかなんかに見えるけど! 限定で、シリアルナンバーとかもついてるんだぞっ!!」


「すみませんっ!」

夏希は一生懸命謝った。


「もう八神もさあ・・いい年こいてガンダムもへったくれもないやん。 そのくらい、」

南は呆れた。


「そのくらいって!」


「1週間前じゃあ、もし落ちててもお掃除のおばちゃんが吸い取っちゃったよ。 きっと、」

追い討ちをかけられ、


「う…」


捜索意欲が一気に萎えていく。




何とか立ち直った八神だったが。


「おい!」

また夏希を呼びつけた。


「はい?」


「おまえ、さっきコピー取っただろ?」


「はあ。」


「紙切れしてんじゃんかよ! ちゃんと補給しとけよ!」


「あ、すみません。」

夏希はそろーっと移動して、紙を補給しに行く。


「もう、八神ってば。 何、威張ってるの?」

南がまた注意をした。


「紙切れしたらきちんと補給は基本でしょう!」


「また、そのくらい、」

呆れてため息をつく。


「そのくらいじゃありません! トイレットペーパーがなくなったら最後の人間が補充するのと一緒です!」


トイレットペーパーを引き合いに出されてもな…


南は反論しようにも、力が抜けた。



それにしても。


「玉田さん! ほら、これ~。 今日から牛丼屋さん、割引チケットくれるんですよ~。」


「え? ほんと? 明日、おれも行ってこよう。」


「これがあるのとないのとじゃ大違いですからね~。」

夏希は玉田と楽しそうに話をしている。


「加瀬さん、中丸設計の社長がお菓子をくださったわよ。 加瀬さんにお見舞いって。」

萌香が外出から戻って言った。


「え~! ほんとですかあ?」


「バームクーヘンですって。」


「バームクーヘン! 嬉しい! この前、あたしが大好きだって言ったの、社長覚えててくれたんだァ。」


この馴染みようはなんなんだ?


八神は夏希が纏う何とも言えない空気を訝しげに感じた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る