第71話

 ま、そんなヒマなんて無いし、思う存分試し撃ちもできた事だし、そろそろ出発するとしようか。


 バサリと空中で回れ右致しまして、ワンモアバサリで発進、ビュ――――ン!!


 いや~、最初にソコソコ高度取ってた御蔭で障害物も無いし、当たり前だけど空って広いからバードストライクっちゃう事も無いしで快適快適~――な旅ももう終わり……


 辿り着いたのは、やっぱり見覚えのある街並み……

 だけど、こんな高さから一望するのは初めてで、中々に新鮮だね。


 それに、こうして街の全体を眺められると目的地も簡単に見つけられたよ。

 まあ、その目的地設定も、あのデブの確証皆無な証言で導き出しただけだから、ホントにソコで目的が果たせるかどうかは分からないけどね。


 と言うワケで、交通の要所たる駅と国道のすぐ傍、良くも悪くも人の流れが集中する坩堝を監視するかのように聳えるの上空へと進む。


 そう、警察署。

 ココが僕の目的地だ。


 ココ以外に考えられるとしたら病院とかだろうけど、あのデブの発言を鑑みればの段階で既に――――だっただろうからね。

 可能性は低めかな。

 でもって、その中でも用があるのはただ一ヶ所、ただ一室のみ。


 しかしながらですね、そもそものハナシ、警察署なんて普通の一般的な男子中学生がお世話になる場所じゃないので、その場所がドコに在るのかなんてさっぱり分かりましぇん。

 だから、さっきみたくローラー作戦の総当たり戦を開催しても良いんだけど、流石に今のこの変身体恰好だと見つけ出す前に邪魔されるだろうし、それは変身解いて手術着姿になっても同じだろうね。


 なので、少しばかり頭を使っていかないといけないワケだけれども……

 ムム、まずは人の出入りの激しい正面口やその周辺には置かないよね……

 で、かと言って出入りし難い建物の上階とか隅とかだと、今度は|面倒になるだろうから……

 考えられるとしたら、関係者以外立ち入り禁止な裏口の近く……

 それも部屋の使用目的としては気温やら湿度やらが変わり難い北側辺り……かな?


 ……(実の所、こんなコトグルグル考え込まなくたって、ば一ではあるし、最終的に何かしらの騒ぎになるのは避けられそうになさそうなのはナイショ)


 なんて、一応のロンリー的思考と九割九分九厘のCHOKKANNを頼りに、警察署上空数百メートルをグルグルと旋回しながら目的のお部屋がありそうな場所を予想。

 でもって、日当たりが良くて開放的でだだっ広い駐車場を備えた上にデカデカと交通安全の標語が掛かれてる横断幕が鬱陶しい正面入り口を尻目に、細い道に面した鉄骨を組み合わせたみたいな車輪付きの門の奥に見える裏口っぽい出入口へ向かってスィ――ッと降下。

 勿論、周りに人気が無いコトも確認済み。


 ではでは早速、あの部屋を探すと致しましょうか!


 などと言いつつ、まだ建物に入っても居ないのにもう既に場所の目星付いちゃったゼ☆

 だって、扉越しでもこんなに


 コレはアレだ。

 矮小過ぎて魔粒子に侵されるからただの一種も微生物が存在しなかった魔界アッチでは全く嗅ぐことの無かった腐敗臭……

 うん、素直に吐き気がするね。


 行き先はこの臭いが指し示してくれそうだけど、どうやらさっきの予想も決して的外れだったワケじゃあ無さそうかな?

 多分、すぐ近くなハズ……


 臭いに釣られて――なんて言うと勘違いされそうだから、ココは臭いを辿ってって言い直そうか。

 とにかく、両開きになってる大き目な扉を押し開けて警察署内に侵入し、サッと状況確認。


 うん、視覚、嗅覚、エコロ、ソナーで洗ってみたところ、廊下にもその脇に幾つかある部屋の中にも人間は居なさそうだね。

 良し良し、元々人の寄り付かないような場所だと思ってたけど、予想通り閑静で助かるね。


 んじゃ、


 そう、僕が向かっていたのはあの事故で無くなった人達が運ばれているであろう死体安置所。

 そこに居るであろう父さんと母さんに会いに来た――もっと言えば、一緒に家に帰ろうと思っておりましたのでした。


 全体的に薄暗くて気温低めな廊下を少し進んだ所で足を止める。

 でもって、学校の教室みたく上に『霊安室』なんて書かれた板が見える扉の前で、確認と心の準備を兼ねて眼を閉じつつ深呼吸、スゥ――ゴフェッ、臭ッ!?


 いやうん、こんな時に何やってんだよ、僕。


 まあ、最後に二人と会った時の事を思えば、チョットばかり緊張してしまうと言うか……

 いや、多分、怖い……んだと、思う。


 確かに、僕にとっては父さんと母さんとの邂逅は十年以上前の事だけど、今は現代であの事故の後。

 となれば、この先で待ってるのは変わり果てた姿の二人だ。

 あのデブもハッキリと『死んだ』って言ってたしね。


 そして、その姿を見てしまったら――その先がどうなるのか、どうすれば良いのか、何も想像ができない。

 さっきまで『こうしよう』『ああしよう』と決めて、バカみたいに主観干渉を練習しまくったのに、まるで光の届かない海の底に沈み続けていくような気分だ。


 逆に、もし二人の亡骸を見てもそれが父さんと母さんであると分からなかったら……

 あの過去の父さんや母さんや兄さんが怪物となってしまった僕を見た時のように、僕自身もまた父さんと母さんを父さんと母さんだと認識できなかったら……

 或いは、僕が向けられたように、僕もを父さんと母さんに向けてしまうかもしれない……


 そんな安定を欠いた心情に引き摺られたのか、なんだか頭痛が一段と強くなったような気がする。

 あ、ダメだ。足元が揺れてるような気もしてきた。

 あと、部屋の臭いとは関係無く胃がせり上がってきたみたいな吐き気もするし、ドックドックと喧しい鼓動に合わせて身体が振るえているようにも思う。



 マズい、何か別の事でも考えて気を紛らわそう……

 そう言えば、もしかしたらココじゃなくて他の場所――例えばどっかの病院の霊安室とかに運ばれてる可能性もあるけど、僕が記憶しているあの事故では父さんも母さんも治療の余地が無いくらいの状態だったから、多分病院の線は薄いと思う。


 いやまあ、山一つ消し飛ばしてやった影響で道が変わってるハズだから、絶対に無いとは言い切れないけど、そうだったらその時に改めて考えれば良いし……

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